プロローグ 『加護』
カーン、カーンカーン
町一番の教会セークリッド・ユスティニアヌスの鐘が高らかに鳴り響く。
一の月の一日、一〇歳になる少年たちにとってはそれは、希望の鐘だった。
少年たちの心臓もその鐘がなるたびに高鳴っていく。
「ユリウス君、一緒に行きましょう。ステータスの加護を与えられる時よ。楽しみで仕方がないわ」
金髪の少女ヴィクトリアは、幼馴染である少年の手を握りながら、はしゃぐように教会に向かう。
「仕方ねーな。じゃ、ま、行くか」
ツンとした物言いを返す少年だったが、やはり人生に一度のステータスの篭を楽しみにしているのだろう。口の端が吊り上がり、ワクワクが抑えられないようだった。
ユリウスとヴィクトリアが教会に着くと、すでに数千人が数珠つなぎに並んでいた。
「わー!ユリウス君、見てよ、凄い人たちよ!」
「そりゃ近隣の小さい村に住む子供も含めて、すべての一〇歳になる子どもたちが集まっているんだから、当たり前だろ?」
そう言いつつも、ユリウス少年の氷のように冷たく蒼い瞳も、その大蛇のような列にくぎ付けになっていた。
「私たちも並びましょうよ。」
「そうしよっか。」
そうして、希望に胸を高鳴らせた少年・少女は同じように期待に胸を躍らせる少年少女たちの列に混ざっていく。
*
「ユリウス・エイベル、君に加護を授けよう。さあ、誓いの言葉を汝の御霊に刻みなさい。」
祭壇で、神父が本日、二一二九人目の少年に問いかける。それだけやっても、精神パラメーターと喉のパラメーターが高い神父は、顔色一つ変わらない厳かな表情で、加護を与えるための決まり文句を高らかに繰り出している。
ここで、少年少女たちは、誓いの言葉を自分の魂に刻む。その言葉は生涯消えることのない言葉として魂に刻まれると言われ、その誓いに応じた能力とステータスが発現すると言われる。
能力とステータスは、思いの純度と思いの強さに応じて、与えられるとも噂されている。
同時にそれは、必要な能力しか与えられないことも意味していた。例えば、“神に見られても恥ずかしくない生き方をする”と誓った少年がいたなら、その少年は精神パラメーターが高くなり、身体パラメーターは低くなる傾向にある。固有能力も恐らく出ないだろう。
ユリウスは瞑目して静かに自分の胸に誓いの言葉をたてる。
「幼馴染のヴィクトリアとずっと、一緒にいられますように。ヴィクトリアを笑顔にできますように。ヴィクトリアに何があっても彼女のことを守ることができますように。」
そして、ゆっくりとくっついていた瞼を離す。
「少年、誓いの言葉は口にしなくてもいいのだぞ。だが、汝の思いは伝わった。さすれば、神の篭が授かろう。」
そう言って神父は少年の頭に手をあてる。少年は、口にしたのを自覚していなかったのか、神父に指摘されて、白い肌を朱に染める。
次の順番待ちをしていたヴィクトリアも、むすっとした表情で瞼を伏せる。不機嫌にも見える表情だが、ヴィクトリアは嬉しくなると、にやける癖があるため、必死ににやけるのをこらえているようにも見える。
「おーっ。少年よ、おめでとう。君の誓いは神に届いたようだ。」
少年は、サファイアのように綺麗な瞳を、優しそうに目尻を寄せる神父に向ける。
「君の能力は、全知全能。百年に一人しかでないという能力だ。君の誓いはきっと、守られることだろう。」
神父は、その少年が目で問いかけた疑問に丁寧にこたえる。
「おーー!!」
「すげー!」
「いいなぁ!」
あちこちから歓声が上がり、拍手が起こる。だが、すでにステータスを授かっていたものを中心に、固有能力を得た少年を妬まし気に見ている人も多かった。
今日の主役は自分だと、密かに期待していた少年少女たちにとっては、その座をユリウスに奪われてしまったようで面白くない。
「ただの女好きじゃねぇーか。」
悪態を口に出してしまう少年もいた。
歓声が治まり、ユリウスが神父の前から立ち去る。
そして、同じようにヴィクトリアも、琥珀色の瞳を閉じて、誓いの言葉を心に刻む。
「汝の能力は、チャームだ。ステータスは平均といったところだ。」
神父は優しそうに金髪のおさげの少女に告げる。チャームは、自分の魅力を最大限に引き出す能力だ。一般的には、芸能の道を進みたいと思う人に数多くみられると言われている。
だが、数多くの少年少女を見てきていた神父は、好きな人がいて、その人に振り向いてもらいたいと思う少女にも見られる能力であることを知っていた。神父は長年の経験に思いを馳せながら少女と少年の恋が上手くいくことを密かに祈っていた。
今日中に次話も投稿するのでよかったらお願いします。