無能の英雄
そのまま剣を持ったままどこかへ歩き出そうとするダリオの腰あたりに、シオンは慌てて飛びついた。
もちろん相手は骨なので、出っ張った腰骨で顔を打ち付けてしまってとても痛い。
それでもシオンは必死になって彼へと訴える。
「たしかに俺もあいつのことは許せませんけど……あなたが出て行ったら、さすがにそれはオーバーキルです!」
【なに安心しろ、命までは取らん。せいぜいちょっと人体のパーツが減ったり増えたりするだけだ】
「ちょっと減るだけでもまずいです!! っていうか、パーツが増えるってどういうことですか!?」
【我、剣だけでなく魔法の方も得意でな。回復魔法の構成をちょちょいっといじって☆☆☆すると、###が***になってあら不思議。人体のあらぬ場所から◎◎◎が大量に生えてきて――】
「それ完全に禁術とか邪法的なやつですよねえ!?」
夢に見そうなグロめの解説を遮ってシオンは叫んだ。
彼の腰にしがみつきながら、ついでにじとっとした目を向けてみる。
「っていうか、なんか急に口調がフランクになってませんかね……?」
【先ほどはファーストコンタクトゆえ、ちょっと格好付けてみた。今ではこんなビジュアルだし中々様になっていただろう?】
「意外とお茶目な人だった……!」
さすがにこんなことは本に書いていなかった。
人かどうかはさておいて。
「って、そうじゃないです! 話を聞いてましたか!? 俺は神紋がないから、あなたの後継者なんて無理なんですってば!」
【はあ? 汝はいったい何を言い出すのだ】
ダリオは怪訝な顔をして――やはり骸骨なのだが、なぜか表情がわかりやすかった――シオンをべりっと引き剥がす。
そうして腕組みして、呆れたように口を開いた。
【汝が神紋を持たぬことくらい最初から理解しておる。そうでなければここには辿り着けん。そういう仕組みだからな】
「ど、どういうことですか……?」
【我が待っていたのは神紋を持たぬ者だ。生前の我と同じく、な】
「なっ……!?」
ダリオがこともなげに告げた言葉に、シオンは大きく息を呑んだ。
(神紋を持たなかった……!? あのダリオが!?)
嘘を言っているような雰囲気ではない。
彼は平然としたまま小首をかしげてみせる。
【なんだ、我の名は後世にも伝わっているのだろう。なぜその程度のことも知らぬのだ】
「い、いえ、あなたの神紋については、なんの情報も残っていなくて……」
【ちっ、なるほど。教会のクソどもが意図的に隠したな? もしくは吸血姫か冥王の差し金か……どのみちクソには変わらんが】
ダリオはぶつぶつと悪態を吐き続ける。
なんだか納得している様子だったが、シオンはそういうわけにはいかなかった。
「ほ、本当なんですか……? とても信じられないんですけど……」
【疑り深いな。まあ、証明するのは簡単だ】
そうしてダリオは右手の甲をシオンに向けて、簡潔な呪文を紡ぐ。
【旧き精霊達よ、我が祝福をここに示せ】
それはかつてシオンが幼い頃にかけてもらった、神紋を判別する魔法だ。
呪文によって生じたほのかな光がダリオの右手を包み込み――しかしすぐに霧散してしまう。何の紋様も浮かび上がらない己の手をひらひらさせて、彼は肩をすくめてみせる。
【な?】
「俺と、同じだ……!」
つまり本当に、ダリオはシオンと同じく――神紋を有さない者だったのだ。
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