無能ゆえの諦め
本日はあと二回更新します。
突然目の前に現れた骸骨が賢者ダリオを名乗り、シオンを後継者にしたいという。
あまりに荒唐無稽な話だ。
だがしかし、シオンは笑い飛ばすことができなかった。
彼の力の一端は、先ほど目にした通りだ。おまけに彼が語った言葉に矛盾がないことは、ダリオの本を読み漁ったシオンがよく理解していた。
(たしかに賢者ダリオは晩年行方不明になって、その最期は誰も知らない! 弟子がいなかったのも本当だし、それに……!)
彼が携える剣を、シオンは改めて凝視する。
風化の激しいダリオ自身とは対照的に、その美しい剣にはわずかな錆も見当たらなかった。束には揺れる炎のような紋章が刻まれている。
(あの剣、本で見たことがある! ダリオが当時持っていたっていう、伝説の魔剣だ……!)
かつてこの剣を巡って多くの種族が争い合ったという。
その争いを収め、魔剣を手にしたのが、他ならぬ賢者ダリオなのだ。
(つまり本当に、あのダリオが俺を後継者に……!?)
幼い頃から憧れた大英雄。
そんな人物が、自分に手を差し伸べているのだ。
シオンは胸が打ち震えたが――深くうつむいて、かすれた声を絞り出す。
「……あなたのことは存じ上げています。素晴らしい功績を残した、伝説の人だ」
【ほう、我が名は後世にも伝わっているのか】
「はい。俺はあなたに憧れていました」
その言葉に嘘はない。賢者の存在は今もシオンのあこがれだ。
だからこそ、シオンはかぶりを振るしかない。
「でも……俺にはあなたの後継者なんて務まりません」
【……何?】
「俺には、神紋がないんです。なんの才能も持っていないんです」
それからシオンはうつむいたまま、己の半生を語った。
ダリオに憧れたこと。神紋を持たないなりに、地道な努力を続けてきたこと。
それでも努力は実らず、さらには仲間から手酷い裏切りにあったこと。
(ゴブリン一匹倒すこともできないんだ。いくらダリオの教えがあっても……神紋を持たない俺じゃ、彼の足元に辿り着く前に寿命が来るに決まってる)
シオンにとって賢者ダリオは憧れの人だ。
だから、そんな人をがっかりさせるような真似はしたくなかった。
「だから、どうか別の人をあたって……っ!?」
そっと顔を上げ、シオンは凍りつく。
ダリオはじっとシオンを見つめていた。
もちろん骸骨なのでその表情は一切変わらない。
しかしシオンの目には、彼が忌々しげに眉をひそめているように見えたのだ。
ひりつく殺気が突き刺さって、完全に二の句が告げなくなる。
やがてダリオは舌打ちとともに吐き捨てた。いわく――。
【なんだその、ラギとかいう恩知らずのクソガキは】
「……はい?」
その口から飛び出したのはシオンへの失望ではなかった。
完全に予想外のその言葉に、シオンは目を瞬かせるしかない。
ダリオは憤懣やる方なしとばかりにぶつぶつこぼして顎を撫でる。
【我が後継者候補に命を救われておきながら、恩を仇で返すとは不届き千万。よし決めた。後継者云々の話は置いておいて、まずはそいつをしばきに行くか】
「わああああ!? ま、待ってください!!」
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