表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

75/119

一触即発?

 バッと勢いよく飛びのいて、クロガネはシオンの背中を盾にして隠れてしまう。そのまま彼女はガタガタと震えて裏返った声で叫んでみせた。


「待て待て待て! なんであいつがここにいる!?」

「わはははは! これこれ! 我はこれを見たかったのだ! 顕現を先延ばしにして正解だったというものよ!」

「だ、大丈夫ですか、クロガネさん」


 彼女を宥めるシオンをよそに、当のダリオは腹を抱えてひーひーと笑い転げるばかりだった。


(そういえば、出て行くタイミングを窺ってるとか言ってたなあ……)


 つまり、これを狙っていたのだ。

 性格が悪いなあ……としみじみしていると、ダリオはニヤニヤ笑ってシオンの隣に並ぶ。

 肩を組んで頰をつんつんしながら、誇らしげに言うことには――。


「で、こいつは我の子孫などではない。我が唯一の弟子だ」

「弟子でーす……」

「なっ……あ!?」


 シオンがおずおずと挙手すると、クロガネは雷に打たれたような衝撃を受けた。

 完全に言葉を失ってしまって、しばらく凍り付いたのちにふっと軽く笑う。


「これは夢だな。悪い夢だ。間違いない。なあ、シオン。あたしの目が覚めるように、ちょっくらぶん殴っちゃくれないか」

「はい!? 無理ですよ! 女の人を殴るなんてできません!」

「いいんだよ竜人族は丈夫だから! 頼むから今すぐあたしをこの悪夢から救い出しておくれよぉ!?」

「ちょっ……落ち着いてくださいクロガネさん!?」


 クロガネはわんわん泣いてシオンにすがりついてくる。

 王者の風格はどこへやら、非力な女性のような怯えようだった。


 そのギャップにドキドキしたし、何より物理的な接触がすごい。スタイル抜群なのは外見から明らかだったが、五感すべてで味わうそれは、とてつもない破壊力を秘めていた。肉感的な体はどこもかしこも柔らかく、異国情緒漂う香の匂いがくらくらする。


(いやいやいや落ち着け俺……! 俺にはレティシアがいるし……人妻にときめくのはマズいだろ! 師匠じゃあるまいし!)


 そのダリオはといえば、わざとらしく目元をぬぐって泣き真似をする。


「千年ぶりの再会だというのに、つれなくされて我は悲しいなあ。幾度も寝所で情交を重ねた間柄だというに」

「っ……! あれはおまえが無理やり――」

「はあ? 毎度合意だっただろう。最初は嫌がりつつも、そのうち興が乗って『もっともっと』と可愛く泣きついてきたではないか」

「ぎゃああああっ! やめろ! マジでそれ以上言ったらぶっ殺すからなあ!?」

「俺、何も聞いてませんから……」


 可能なら、今すぐすべてを忘れたかった。

 しかしそんな魔法は知らないので、シオンは明後日の方向に顔を背けるしかない。

 クロガネは頭を抱えてうずくまってしまう。


「ぐうう……この気配……夢じゃねえみたいだな……なんでこの悪魔がここにいるんだよ……」

「えっと、少し長くなりますが……俺が説明しますね」


 シオンは彼女をなだめながら、ダリオとの出会いをかいつまんで説明した。

 最初は動揺しっぱなしだったクロガネも、話を聞く内に落ち着いた……というより、事態を受け入れる覚悟を決めたらしい。渋面を浮かべながらもじっくりと聞いてくれた。

 ただし、その眉間に寄った眉は、しばらく痕が残りそうなほど深い。


 シオンが説明を終えると、彼女は肺の空気すべてを吐き出す勢いでため息をこぼし、ダリオを睨む。


「つまりおまえ……転生もせず魂のままで、ずっと千年も居座ってたっていうのかい」

「その通り。後継者がほしくてな」

「こっっわ!? その気長な計画、長命種の発想だからね!?」


 そう叫んでから、クロガネはシオンの両肩をがしっと掴む。


「シオンもシオンだよ。こいつとそれなりの付き合いができたってことは、横暴さが嫌というほどに理解できただろ。今からでも遅くはねえ、弟子入りなんてやめときなよ」

「いやでも……師匠はたしかに性格に難がありますが、悪い人ではないですし」

「バカ野郎! だからって人生棒に振る理由にはならないだろ!」

「ずいぶんな言い草だな。久方ぶりの飼い主との再会、もう少し喜んでもいいのでは?」

「誰がペットだ! 誰が!」


 力いっぱいに吐き捨てて、クロガネは軽く飛び退いて距離を稼ぐ。

 そのまま重心を落として両手に魔力を集中させ、臨戦態勢を取った。


「千年前におまえから受けた恨み……今ここで晴らしてやってもいいんだぞ」

「ふん、おもしろい。貴様なんぞが我に勝てるわけないだろうが」

「ちょっ、ふたりとも落ち着いてください」


 クロガネの挑発に、ダリオはニヤリと笑うだけだった。

 言葉の通り、両者の力の差は明確だ。

 だからシオンはふたりを落ち着かせようとするのだが――。


「千年前のことはそもそも汝が悪いのだろう。かつて世界を脅かした邪竜よ?」

「……うん?」


 ダリオが肩をすくめて続けた言葉に、目を丸くすることとなる。

続きはまた明日更新します。書籍版もよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ