英雄との出会い
本日は今回に加えあと三本ほど更新予定。
「う、うご……っ!?」
驚きのあまり、まともに声が出なかった。
だがしかし、もっと驚愕すべき光景が繰り広げられる。
骸骨は泰然とその場に立つ。
左手で鞘を持ち、右手は剣の柄へそっと添えられた。
風が吹けば飛ぶような、枯れ木のような立ち姿だ。だがしかし、言い知れぬ気迫に満ちている。
「グルゥ……アアアアアアアアア!」
ついにゴブリンキングが雄叫びとともに地を駆けた。
まっすぐ迫り来る巨体を前にして、骸骨は微動だにしない。
だが不意にその出で立ちが、膨れ上がったように見え――。
【…………!】
音も殺気も、そよ風すらも伴わなかった。
だがしかしその一撃は、たしかに世界を一変させた。
「グギャァアアッ!?!」
「なっ……!?」
次の瞬間、ゴブリンキングの巨体に幾多もの亀裂が走り、細切れの肉片となって崩れ落ちた。手下のゴブリンたちも同様だ。
あとにはむせ返るような血の臭いと、断末魔の反響だけが残る。
【…………】
骸骨はいつの間にか剣を抜いていた。
ゆっくり鞘へと収めるその白刃には、一滴の血も付着してはいない。
それでもゴブリンたちを断ち切ったのはその剣だと、シオンは直感していた。
(す、すごい! いったい何をやったんだ……!?)
瞬きひとつしなかったはずなのに、骸骨がいつ刃を抜いたのか、どのような剣技を繰り出したのか、シオンの目には捉えることもできなかった。
地面に膝をついたまま、ぽかんとその立ち姿を見つめていると、骸骨がこちらに向き直った。
そのぽっかりと開いた暗い眼窩がシオンを捉え――顎骨が動く。
【汝、名は?】
「うわっ!?」
その口から放たれたのは、厳格そうな男の声だった。
(が、骸骨がしゃべった!?)
あまりに現実離れした光景に、シオンはあんぐりと口を開いて固まるしかない。
それでも骸骨はなおも淡々と言葉を紡ぐ。
【名は?】
「あっ……! し、シオン……シオン・エレイドル、です」
【なるほど。シオンか】
「は、はあ……」
骸骨はふむ、とうなずき顎を撫でる。
やけに人間らしいその姿に、シオンの気がすこしゆるむ。
しかしそれも一瞬で吹き飛ぶことになる。
骸骨が己の胸に手を当ててこう告げたのだ。
それはシオンの人生の中でも、最も衝撃的な言葉だった。
【我が名はダリオ・カンパネラ。かつて賢者と呼ばれし者だ】
「け、賢者ダリオ!?」
骸骨が告げたのは、シオンが憧れる古の英雄の名で。
固まるシオンにもかまうことなく、賢者を名乗る骸骨はよどみなく言葉を紡ぐ。
【我は生前、血の滲むような研鑽を積み、剣と魔法を極めて最強の頂にまで上り詰めた。だがしかし……そこが我の限界だった】
ダリオは己の限界を感じ、次代の者に技術を託し、己がたどり着けなかったさらなる高みを目指してもらおうとした。
だがしかし、その時代に彼のお眼鏡に敵う者はなく……それゆえこの世に魂を留め、自身の技術を伝授するに値する後継者を、ここでずっと待っていたという。
【シオンとやら。この場所に辿り着いた汝には、その資格がある】
骸骨は腰を落としたままのシオンに、右手を差し伸べる。
ひどく風化した骨の手は、言い知れぬ力強さを感じさせた。
【汝が力を望むのなら、我が持ちうる技術のすべてを授けよう】
「っ……!」
シオンは言葉を失うほかなかった。
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