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竜人親子

「ぐっ……う……なんだ貴様は……!」


 シオンが思考を切り替えるのとほぼ同時、グルドが茂みから這い出てくる。

 しゃにむに飛び込んでぶっ飛ばしたせいで、彼の手にした刀は根元から折れてしまっていた。しかしグルドにはたいした怪我はない。腕からわずかに血を流しているものの、それだけだ。


(人の形をしていてもやっぱりドラゴンなんだな……思ったより丈夫みたいだ)


 グルドはシオンを睨め付け、空が震えるほどの声量で吠える。


「何者だ! 名を名乗れ!」

「シオンといいます。ただのお節介焼きですよ」


 ノノを庇いながら、シオンは飄々と名乗ってみせた。そのついでに敵の戦力を確認する。

 相手は全員、竜人族。

 遠くで見ているときは分からなかったが、こうして対峙すると誰も彼もが平均的な人間を大きくしのぐ上背と体格の良さを有していた。おまけにその体からは有り余るほどの莫大な魔力が感じられた。


(でも、剣を抜かなくても……追い払うくらいはできるかな)


 シオンは冷静に力量を図り、判断する。

 そうする間にも、男たちの間にどよめきが広がっていく。


「この匂い……まさかこいつ、人間か!?」

「だが、人間が何故こんなところに……っ!」

「細かいことはいいでしょう」

「なっ……!?」


 ひとりの竜人族がうろたえ、仲間に視線を向ける。

 その一瞬の隙をシオンは見逃さなかった。

 身をかがめてターゲットの懐に潜り込む。地面に手を突き、伸び上がるようにして垂直に蹴りを放てば顎にクリーンヒット。竜人族は悲鳴を上げることもなく昏倒する。


「こっ、の……!」

「遅い」


 すぐ隣の二名が動き、爆炎と氷柱が瞬く間もなく打ち出される。

 しかし、シオンは臆することなく飛び込んだ。轟と凄まじい烈風が攻撃のすべてを千々に散らし、シオンはすれ違いざまに二人を掌底で沈めていく。くぐもった悲鳴が重なった。


 一瞬のうちで三名が地に伏せることとなった。

 手下の竜人族たちだけでなく、お頭と呼ばれていた男もまた息をのむ。

 挨拶はこのくらいで十分だろう。シオンはゆっくりとかぶりを振る。


「手を出すにしたって穏便にいこうと思っていたんです。でも、こればっかりは許せません」


 きょとんと目を丸くしたノノを見やってから、シオンは再び一同を見回した。


 そこで、今し方斬り捨てたはずの男たちがよろよろと起き上がってくる。

 手加減したとはいえ、深刻なダメージは与えられなかったらしい。

 現に先ほどの一撃では鉄を斬ったような手応えだった。やはり彼らの体を覆う鱗は、けっして飾りなどではないようだ。


(でも……俺なら問題ない)


 そんな確信を、シオンは笑顔に変えて一同へ向けた。


「次は全員でかかってきていただいても構いませんよ? ただ……次は手加減できません。それでもいいならご随意に」

「ちっ……! その顔は覚えたぞ、人間!」


 グルドが吠え立てたその瞬間、烈風が吹き荒れ、風が止んだときには彼らの姿は忽然と消え去っていた。

 気配が遠ざかっていくのが肌で分かる。


【追わなくてもいいのか、シオン。あの程度、汝なら一発で斬り捨てられように】

(相手の事情も戦力も分からないのに突っ込んじゃダメですって。まずはこの人たちの治療が先です)


 シオンはかぶりを振り、地面に座り込んで目を白黒させているクロガネへと歩み寄る。

 彼女に回復魔法をかけて、軽く頭を下げた。


「すみません。よそ者が首を突っ込むのはよくないと思ったんですが……出過ぎた真似をしました」

「おまえ……いったい何者だい?」


 クロガネは信じられないものを見るような目でシオンを見上げる。

 絶体絶命の危機に、都合良く現れた助っ人を心底怪しんでいるようだった。


「おかーさん!」


 そこにノノが飛び込んできた。

 クロガネにひしと抱きついて、ぼろぼろと涙を流しながら嗚咽をこぼす。


「ごめんなさいなの……! お外に出ちゃダメって言われてたのに、約束やぶって……ご、ごめんなさい、なの……!」

「ノノ……無事で良かったよ」


 泣きじゃくる娘のことを、彼女は力強く抱きしめた。

 その光景にシオンが胸をなで下ろしていると、レティシアがやってくる。

 すぐそばの茂みで待機してくれていたのだ。先ほどまで真っ青な顔をしていたものの、今そこに浮かんでいるのは満面の笑みだ。


「お疲れ様でした、シオンくん」

「あはは……ごめんね、レティシア。急に飛び出したりして。びっくりしなかった?」

「いいえ。シオンくんならあそこで出て行くって分かっていましたから」


 レティシアは首を横に振って、にっこりと笑った。


 そんな中、クロガネがため息をこぼして立ち上がる。

 血と泥にまみれてはいるものの、その立ち姿は凛として気品がある。背丈もシオンよりわずかに高いくらいだ。

 彼女は娘を抱いたままシオンのことをじっと見つめて――深々と頭を下げた。


「おまえさんが何者なのかはさて置いといて……ひとまず助かった。礼を言うよ」

「いえ、たいしたことじゃありません。当然のことをしたまでです」

「わはは! 嫌味なほどに爽やかなやつだね、気に入ったよ」


 クロガネは顔を上げてさっぱりと笑う。

 ノノもまたおずおずと頭を下げた。


「お、おにーちゃん……助けてくれて、ありがと、なの」

「どういたしまして。きみもケガはない?」

「うん。だいじょうぶなの」


 ノノはぐすぐすと鼻をすすりながらも、しっかりと答えてみせた。

 その泥だらけの顔を見て、レティシアがごそごそと鞄を漁る。


「怖かったですよね……甘いものはお好きですか? これ、よかったらどうぞ」

「わあ! おねーちゃん、ありがとうなの!」


 レティシアから飴玉を受け取って、ノノはぱっと花が咲いたように笑った。

 おかげで緊張もゆるんだらしい。

 そんな彼女の笑顔にホッとしてから、シオンは男らが消えた方を見やる。


「同じ竜人族なのにあんな卑劣な真似を……あいつらいったい何者なんですか?」

「ま、そいつはこっちの事情ってやつだ。まずはてめえらのことを教えておくれよ」


 クロガネはニヤリと笑って肩をすくめる。

 口ぶりは軽いものだが、目はわずかにも笑っていない。

 少しだけ声を低くしてシオンを見据える。


「やけに腕が立つようだが……修練にでもやって来たのかい? 普通の人間なら、この谷にやって来る理由なんてないはずだしね」

「いえ、ちょっと事情がありまして……」


 黒刃の谷は凶暴な魔物が多い上、街道からは大きく外れている。

 迷い込む人間も少ないはずで、彼女がシオンらに疑念を抱くのはもっともなことだった。

 その冷え切った空気を肌で感じたのか、レティシアが一歩前に出て答える。


「私たち、おうかがいしたいことがあって……竜人族の族長様に会いに来たんです」

「……は?」


 クロガネが目を丸くしてぽかんとした。

 ノノと顔を見合わせて、困ったように頬をかく。


「いや、族長に会いたいと言われてもなあ……」

「……やっぱり、よそ者がそんな偉い方にお目にかかるなんて難しいですよね」

「違う違う。そういう意味じゃないよ」


 しゅんっと肩を落とすレティシアに、クロガネはぱたぱたと片手を振る。

 そこで、ノノが小首をかしげてみせた。


「おにーちゃんとおねーちゃん、おかーさんのお客さまなの?」

「へ……?」

「なんだ、族長がどんな奴かも知らずにやって来たのかい?」


 レティシアだけでなくシオンも言葉を失ったのを見てクロガネは肩をすくめてみせる。

 己の胸をどんっと叩いて、ニヤリと笑って言うことには――。


「ようこそ、お客人どの。竜人族の族長はこのあたしだ」

「えええええっ!?」


 ふたりの声が響く中――。


【くっ、くくく……愉快、愉快……】


 ダリオは小さな笑い声をこぼすのだった。

続きは明日更新します。二週間くらいは毎日更新できるはずなのでお暇つぶしになれば幸いです。

今週末一巻発売!特典SSも七本あるので、詳しくは活動報告まで。

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