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万象の力

しかしダリオは取り合わなかった。怖いくらいに真剣な面持ちでレティシアに詰め寄る。


「少々聞きたいことがある。というか、確認させてくれ」

「……なんでしょうか」

「例の悪霧事件、犯人は汝だな?」

「…………はい」


 レティシアはしずかにうなずいた。

 悪霧事件……住民がすべて一夜の記憶を失って、一時的に神紋の力を失った事件だ。

 シオンはごくりと喉を鳴らし、レティシアの顔を見つめる。

 

「レティシアが悪霧事件の犯人……本当なんですか?」

「ああ。シオンも見ただろう。この娘が力を使い、街の者たちはみな眠りについた。おまけに体には無数の神紋。確定だろう」


 ダリオは鼻を鳴らし、目をすがめてレティシアを見つめる。

 針のような眼差しだ。レティシアはびくりと身を縮めるが、ダリオはおかまいなしで続けた。


「この娘の力は万象紋。この世のすべてを統べる、神がごとき力だ」

「神の力……? ふつうの神紋とは違うんですか?」

「同列に論じることなどできん。なんせ、あらゆる神紋の力を有しているに等しいのだからな」


 ダリオが語るところによれば、その力は文字通り万象に及ぶという。

 あらゆる神紋を無効化し、力を奪うことができる。昏倒してしまうのは、おまけに過ぎないらしい。


「しかも、一度奪った神紋は永久に己のものにできる。我らが無神紋の無能だとすれば、レティシアはその対局。まさに全能と言えような」

「で、でたらめすぎますよ……! そんなの聞いたこともないです!」

「当たり前だろう。限られた者だけが知ることだからな」

「万象、紋……この力にそんな名前が……っ!」


 レティシアは己の手をじっと見つめていた。

 しかし突然ハッとしてダリオに詰め寄るのだ。


「シオンくんのお師匠さん! お師匠さんはご存じなんですか!? 私がいったいどこの誰で、どんな人間だったのかを……!」

「……残念だが、我が知っているのはその力についてだけだ」

「そんな……」


 ダリオがゆっくりとかぶりを振れば、レティシアは真っ青な顔で後ずさる。

 深刻な話の中、シオンは霧の立ちこめる街並みへそっと視線をやる。

 道のあちこちに人が倒れており、そこには種族の区別がまるでない。あたりを覆うのは耳が痛いほどの静寂だ。シオンはおもわずごくりと喉を鳴らしてしまう。


(これだけの範囲の人間を、一瞬で無力化できる力だなんて……想像を超えているな)


 これこそが、彼女の言っていた切り札なのだろう。

 そして『シオンには自分の力が及ばない』という言葉の意味も理解できた。


(こんな滅茶苦茶な力も、たしかに俺と師匠には何の関係もないか……なんせ奪える神紋がないんだもんなあ)


 実際、ふたりとも静まりかえった街の中でぴんぴんしていることだし――しかし、そこでふと気付くことがあった。

 

「うん? でも待ってよ。さっきの男たち、ふたりだけ起き上がってきたけど……?」

「えっ……?」


 それにレティシアが目を瞬かせる。


「そ、そんなはずありません……神紋を持つ人は、みんなこの力で眠ってしまうはずなんです。これまでどんな人も丸一日は起きませんでしたし……」

「ほうほう、可愛い顔して汝もなかなか悪ではないか。その口ぶりなら、これまでにも何度か使ったことがあるな?」

「な、なるべく使わないようにしていました……! でも、怖い人に絡まれて、どうしようもなかったときとかにだけ……ううう……」

「それは使うべきタイミングだったと思うよ、レティシア」


 しどろもどろになって落ち込むレティシアの肩を、シオンは力強く叩いてみせた。

続きは明日更新します。

本日は別作品のコミカライズが更新されております!よろしければさめの活動報告からどうぞ。悪い魔法使いがかわいそうな女の子をたぶらかすラブコメです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] うーん...師匠のインパクトがスゴすぎて...万象紋がスゴく見えない... [気になる点] 神紋をつける手術で二個つけた...とか?
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