確認は大事
ダリオはくるくる回ったり、スカートをひらひらさせてみたりして、ひとしきり体の具合を確かめる。
最終的にはぐっと拳を作り、にやりと笑った。
「うむ、活動には問題ない実体だ。我ながら惚れ惚れする腕前よな」
「いやいやいや!? 実体化は納得しましたけど!?」
レティシアをそっと壁際に寝かせてから、シオンは満足げな少女の肩をがしっと掴んで叫ぶ。
「師匠、なんで女の子の格好なんです!? 生前のお姿になればよかったじゃないですか!」
「この期に及んでまだ分からぬか。我は元から女だが?」
「うぐぅっっっ……!」
こてん、と小首をかしげて言うダリオ(?)に、シオンは言葉を詰まらせる他なかった。
彼女が嘘をついているようにはとうてい見えず――よろよろと彼女から手を離し、頭を抱えてうずくまる。
(嘘おおおおお!? 師匠、女の人だったの!? たしかに何かおかしいな、って思うときはあったけど……!?)
たしかにダリオが女性なら、いくら女の人を食い散らかそうが子供ができるはずはない。筋肉ムキムキの肖像画にブチ切れたのにも納得がいく。
そもそも、それ以外にも違和感はいくつもあった。だがそのどれもを『まあいいか』とやり過ごしてきてしまったのはシオン自身で……。
(やっぱり確認は大事だな!?)
改めて心に刻むシオンである。一方で、ダリオは居丈高に笑う。
「だーっはっはっは! 見事、我が美貌にノックアウトされたようだな! ほれほれ、もっとよく見るがいいぞ、この美少女っぷりを! サービスで汝と同じ年頃で顕現してやったゆえ、有難く思えよな!」
「……はあ」
その高笑いを聞くうち、シオンの心がすっと鎮まった。
たしかに絶世の美少女だ。胸も大きいしスタイルは抜群。だが、しかし――。
(師匠が女性だった、っていうか……つまりこの女の子が師匠なんだよな?)
壮絶な修行で死ぬほどしごかれたこと、女の子と交際経験がないのを散々からかわれたこと……そんな師との思い出がいくつも脳裏をよぎり、シオンはゆっくりと立ち上がる。
そうしてダリオへ向けて軽く会釈してみせた。爽やかな笑みも合わせて。
「あ、お騒がせしてすみません。落ち着きました。どんな姿だろうと、師匠は師匠ですよね」
「むう、まあそれはそうなんだが……なんだか非情に腹立たしい納得の仕方をしてはおらぬか、汝」
ダリオはじとーっとした目でシオンを睨む。
それなりに迫力はあるものの、見た目がキラキラした美少女なので威圧の威力は半減していた。
師弟がそんなふうにじゃれ合うさなか――。
「うっ、うう……っ」
「っ、レティシア!」
レティシアが小さくうめき、ゆっくりと目を開いた。
慌ててそちらに駆け寄るものの、苦しむようなそぶりはない。シオンはほっと胸をなで下ろす。
「よかった。目が覚めたんだね。体の具合はどう?」
「シオンくん……」
レティシアはじっとシオンの顔を見つめ、どこか寂しげに笑う。
「やっぱりあなたには、私の力が通用しないんですね……」
「『やっぱり』……?」
「レティシア」
シオンが目を瞬かせていると、ダリオに押しのけられる。
突然現れた派手な美少女を前にして、レティシアはびくりと身をすくめてみせた。
「ど、どなたですか……?」
「なに、怪しい者ではない。このアホ面の師だ」
「シオンくんのお師匠様……! こんなにお若い方だったんですか!?」
「あはは……」
いろいろと説明が面倒なので、シオンは乾いた笑いでごまかした。
続きは明日更新します。本章ラストでキリのいいところまで行く予定です。
それまで毎日更新予定なので、お暇つぶしになりましたら幸いです。
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