心配
振り返ってみれば、レティシアが歩いてくるところだった。
半日ぶりに見るその姿に、シオンはホッとする。しかしすぐに胸がざわついた。
(うん……? なんかレティシア、元気がない……?)
笑顔を浮かべているものの、レティシアの足取りは重く、顔色も優れなかった。
よたよたとした足取りでこちらに向かってきて、通行人とぶつかりそうになる。
「きゃっ!」
「危ない!」
シオンは素早く駆け寄って、レティシアのことを支えた。
女の子特有の甘い香りが鼻腔をくすぐってドキッとしたが、彼女の体が熱っぽいことに気付いて邪念が一瞬で吹き飛んだ。
レティシアの顔をのぞき込み、シオンは静かな声でたずねる。
「大丈夫? なんだか顔色も悪いみたいだけど……」
「す、すみません、ご心配をおかけして……すこし疲れてしまったみたいで……」
「すこしってレベルじゃないでしょ! ほら、座って座って!」
「きゃっ」
慌てて彼女を抱きかかえ、先ほどまでシオンが座っていたベンチに下ろす。
すこし顔が赤くなったところに、回復魔法をかけてやる。
「はい。《ヒーリング》」
「わわっ」
淡い光がレティシアを包み込む。
すると彼女の顔から疲労の色が消え、血色が目に見えて良くなった。
レティシアは驚いたように目を丸くする。
「びっくりしました。回復魔法も覚えたんですね」
「うん。ずっと昔にレティシアも俺にかけてくれたよね、あのときのお返しだよ」
「ずっと前……? ほんの三日くらい前じゃないですか、大げさですよ。でも……ありがとうございます」
レティシアはくすくすと笑う。
気の遠くなるような修行を経たシオンにとっては大昔だが、彼女にとってはたしかにそれくらいの感覚だろう。
だが、それで緊張がほぐれたらしい。隣に座ったシオンに、レティシアはにこにこと笑いかける。
「あっ、シオン君も昇格試験、お疲れ様です。それで、えっと……どうでしたか?」
「もちろんバッチリだよ。ほら」
そう言って、シオンはもらったばかりの証書を出してみせた。
Fランクの認定証である。それを見てレティシアはぱっと顔を明るくする。
「すごいです! さすがはシオンくんですね」
「あはは、ありがと。レティシアはもう晩ご飯食べた?」
「あっ、いえ。まだですね。でも、宿はもう取ってありますよ」
「それじゃ、宿に行く前にすこし休んでから軽く何か食べに行こうか」
「はい。お気遣いありがとうございます」
そのままふたりは言葉を切って、ぼんやりと広場をながめた。
夜だというのに活気があり、行き交う人々もみな笑顔を浮かべている。
賑やかで明るい景色を見つめながら――シオンは声のトーンを落としてたずねた。
「レティシアも用事、終わった?」
「えっと、その……」
レティシアは言葉を濁す。先ほどまでの笑顔も消えて、顔にかすかな陰が落ちた。
だからシオンは彼女の手を取り、まっすぐその目を見つめて続けるのだ。
「今日言ったよね、俺はレティシアの味方だって。どんなことでも力になりたいんだ」
「……シオンくん」
「ひょっとして、その用事って何か大変なことだったりする? あんなに疲弊するくらいなんだし、よっぽどのことだと思うんだけど」
レティシアの憔悴ぶりは先ほど目にしたとおりだ。
ラギのパーティにいたときでも、あそこまでふらふらになった姿を見たことはない。
だからシオンは心配するのだが、レティシアは困ったように笑うだけだ。
「いえ、疲れちゃったのは……ただ街をずっと歩いていただけですから」
「あ、歩いただけって……この広い街を? ひょっとして朝からずっと?」
「……はい」
続きは明日更新します。
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