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師の肖像

 商品の入った紙袋を抱え、シオンはレティシアとの待ち合わせ場所へと向かった。


 街にいくつも伸びる大通り――それが交差する広場だ。中央には大きな時計台があり、街灯だけでなく魔法の光があちこちに灯されて、真昼のように明るい。

 そのせいかさまざまな屋台が出ており、人が大勢集まっていた。大道芸人が打ち鳴らす楽器の音色が、夜空のもとで響き渡る。


 そんな広場をシオンはぐるりと見回す。


(うん。レティシアはまだ来てないみたいだな)


 待ち合わせの時間にはすこし早い。

 だからシオンは適当な隅のベンチに腰掛けて、紙袋をごそごそと開く。


 近くの屋台でアルコールを販売しているらしく、周囲には酔っぱらいの姿が多かった。街灯に喧嘩を売る者さえいる。こんな場所なら、剣に話しかけたところで悪目立ちすることはないだろう。


「ほら、師匠。見てください」

【む。なんだ、その本は】


 袋から取り出したものを見て、ダリオが訝しげな声を上げる。

 それは一冊の本だった。装丁はしっかりしていて、かなり分厚い。

 シオンはいたずらっぽく笑う。


「これはですね……賢者ダリオの冒険を描いた本なんです!」

【ほう?】


 興味をそそられたのか、ダリオの声がすこし弾んだ。


「昔から読んでた本なんですけど……せっかく本人がいるんだから、解説してもらいたいなと思って。本に書いてることが本当かどうかも気になりますし」

【なるほど、答え合わせか。しかし千年も後の世に、こんな風に我が名が残っているとはなあ。汝から聞いていたが、すこしは感慨深いものがあるな】


 ダリオはくつくつと笑う。

 しかしそうかと思えば声をひそめて、ぽつりと言った。


【悪いな、気を回させて】

「……なんのことでしょう」

【下手な誤魔化しは不要だ。おおかた我を気遣うために、その本を買ってきたのだろう】


 ふんっと鼻を鳴らしてから、ダリオはからかうように続ける。

 その声にはどこか吹っ切れたような明るさが含まれていた。

 しばらく笑ってみせてから、師は静かに問う。


【……あとで話がある。昼間のあれと似たようなもので、あまり面白くもないとは思うが……それでも聞くか?】

「もちろんです。俺は師匠の弟子ですからね」

【くはは、従順で何よりだ。我の教育のたまものだな!】


 ダリオは上機嫌にからからと笑う。

 どうやらもう完全に元の調子が戻ったらしい。


【まあ、先にその本を見せてもらおうか。いったいどんな内容なんだ】

「これは邪竜との一騎打ちを書いたものですね。表紙のイラストが最高にカッコいいんですよ」

【ほう、絵があるのか。我はどんなふうに描かれているんだ】

「もちろん表紙にいますよ。これです、これ」


 意気揚々とした師に、シオンは本の表紙をかざしてみせる。


 そこには筋骨隆々とした男が、魔剣を手に巨大なドラゴンへと対峙する絵が描かれていた。顔立ちは精悍そのもの。いかにも英雄らしい人物だ。


 ダリオと邪竜の一騎打ちは、数ある伝説の中でももっともシオンが好きな逸話だった。


(やっぱりカッコいいよなあ、師匠。俺もいつかこんなふうになりたいな)


 やはり男に生まれたからにはこんなムキムキに憧れる。

 壮絶な修行によってかなり筋肉がついたものの、体格はまだ少年らしくひょろりとしたものだ。


 シオンは未来の目標として、そのダリオの姿を胸にしっかり刻むのだが――。


【…………はあ?】


 当の本人は虚を突かれたような声を上げた。

続きは明日更新します。

引き続き、ブクマや評価、ご感想などで応援いただけると嬉しいです。

本章書きあがり次第感想返信しますので、のんびりお待ちください。誤字報告とかはこっそり直しております……!いつもありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
[一言] アダルティな本じゃなくて安心したw 霧の件はそもそも紋章持ってないからな。師匠同様。 ってことは師匠も対峙して、その戦闘に勝った筈なのに、まだ生きてるって展開になるのかな?
[良い点] なーんだ...師匠に買ったのか... [気になる点] 街灯に喧嘩を売る人...三回だけ見たことあります...同じ人だけど...
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