酒宴のあとに
日が暮れて、しばらく経ったころ。
デトワールの街――その中心部に位置する大きな酒場で、シオンはぺこりと頭を下げていた。
「それじゃ、今日はお誘いいただきまして本当にありがとうございました!」
「おう! また今度な、シオン!」
そんなシオンに、同じ場に居合わせた面々は笑顔で手を振ってくれた。
Fランク試験合格祝いの宴会は大盛り上がりとなり、ほとんどの者たちはまだ残るらしい。
しかしシオンは宴もたけなわというタイミングで席を外すことを決めた。
扉を開けて一歩外に出ると、夜だというのにまばゆい光が迎えてくれる。
さすが大きな街なだけあってか、空が暗くなる時間帯になっても出歩く人の姿が多く見られた。等間隔に並ぶ街灯はひとつ残らず灯されており、様々な店を照らし出している。
外に出て、あらためてシオンは嘆息する。
「ふう……こんなに楽しい宴会、初めてだったなあ」
まだ見ぬ冒険に憧れる同胞たちと、飲んで食べて大いに騒ぐ。
前の町ではよく見かけた光景に自分が混じれるなんて、本当に夢みたいだった。
ぼんやりするシオンに、ダリオがくつくつと笑う。
【何を言う、汝は一滴も飲んでおらぬではないか。酒宴の醍醐味は酒だろう、酒】
「俺は未成年なんです。それは先の楽しみにとっておきますよ」
【ほう、では成人した暁には我と飲み交わすか。せいぜい上等な酒を用意するがいい】
「師匠、酒なんて飲めるんです……?」
酒樽にこの魔剣をぶっ刺せばいいのだろうか。かなりシュールな宴会になりそうだった。
そんなことをコソコソと話しつつ、大通りを歩き出そうとする。
しかし、そこで背後から声がかかった。
「待って、シオン!」
「あっ、プリムラ」
見れば酒場の扉を開けて、プリムラが出てくるところだった。
駆け足でシオンに追いついてにっこりと笑う。
「本当に、今日は助けてくれてありがとうね、シオン。この恩は一生忘れないわ」
「大げさだなあ……別にいいって」
「あら、そういうわけにはいかないわ。うちの姉さんもよく言ってるもの。『冒険者たる者、やられたらとことんやり返しなさい』って!」
「それは完全に報復的な意味だよね!?」
どうやらかなり物騒なお姉さんらしい。
ツッコミを入れたシオンに、プリムラはくすくすと笑った。しかし、そうかと思えば彼女はそっと目線を外し、指先をすりあわせながらもじもじと言う。
「だ、だからね、その……シオンさえよければ、この後どう……?」
「へ?」
「この近くに、夜も開いてる美味しいケーキ屋さんがあるの。今日のお礼にご馳走したいんだけど……ダメ?」
プリムラはほんの少しだけ首をかしげて上目遣いで問いかける。
おかげでシオンは一気に顔が赤くなってしまった。
(こ、これってひょっとしてデートのお誘いなんじゃ……!)
ごくりと喉を鳴らす。女子からこんな誘いを受けるなんて初めてだ。
だがしかし、シオンはゆっくりと首を横に振った。
「ご、ごめん……これから人と待ち合わせしてるんだ」
「むう……そうなんだ。じゃあ仕方ないわね」
プリムラはため息をこぼしてから、すっと目を細めてシオンを見つめてくる。
「その待ち合わせ相手って……ひょっとして女の子? デートだったりする?」
「で、デート!? 違うって! たしかに相手は女の子だけど、ただの友達っていうか、なんていうか……」
シオンはますます顔を赤くさせて、しどろもどろで否定する。
待ち合わせの相手というのは、もちろんレティシアだ。今夜の宿をシオンの分まで取ってくれる約束で、そこで明日以降のことを話し合う予定だった。
(だからデートとは呼べないんだけど……い、意識しちゃうなあ……)
ドギマギするシオンに、ダリオが【青いなあ】なんて野次を飛ばすが、聞かなかったことにする。
プリムラはなおもじーっと熱い視線を向けていたが、やがてにんまりと笑みを浮かべてみせた。
「その子とデートじゃないなら……私にもチャンスはあるってことよね?」
「チャンスって……」
「あら、私は狙った獲物は絶対逃がさないんだから。今度腕前を見せてあげるわ」
そう言って、プリムラは背負った大きな弓を示してみせた。
(腕前ってどっちのことだろ……単純に狩りのことなのか、それとも恋愛戦か……どっちもかなあ……)
シオンは戸惑うしかないが、プリムラはさっぱりと笑う。
「それじゃ、その子にも悪いし今日のところは諦めるわ。私は姉さんのパーティと一緒に、半年くらい前にこっちに来たんだけど……まだしばらくはここを拠点にするはずなの。シオンもそのつもり?」
「あ、うん。当分はここでギルドの依頼を受けたりするかなあ」
元の町ではすっかりバケモノ扱いだったし、新天地で心機一転である。
ちなみに元の町のギルド支部長であるフレイは、この街の支部長と積もる話があるとかで、試験後に別れていた。
『何か困ったことがあれば、いつでもギルドを通じて連絡してくれ。おまえのためなら、どんな仕事だろうと放り出して駆けつけるからな』
『お、お仕事優先でお願いします……』
冗談めかして言ってはいたものの、あれは完全に本気の目だった。
続きは明日更新します。
本日より新章突入。当分は毎日更新のつもりですが、わりとストックがカツカツなのでたまにお休みするかもしれません。ゆるっとお付き合いください!ブクマや評価でも応援よろしくお願いいたします!




