凱旋
あっという間にシオンは彼らに取り囲まれる。一瞬警戒してびくりと身をすくめてしまうが、誰も彼もが満面の笑みを浮かべていた。シオンの肩や背を親しみのこもった手でばしばしと叩いていく。
「すげえ! マジで強いじゃねえかよ、おまえ!」
「無神紋なのにあの神龍を倒すとか……やるじゃねえか! 見くびっちまって悪かったな!」
「しかもあのハゲ野郎をボコすとは見上げたもんだ!」
「ああ! あいつ前から気に入らねえと思ってたんだよ! お飾りの副支部長だっつーのに偉そうにしやがって!」
「おかげでスッキリさせてもらったぜ! ありがとな!」
「いやあの、グスタフさんを倒したのは俺じゃないんですけど……」
みながみな、満面の笑みでシオンに賞賛を贈る。
そこには負の感情が一切含まれているようには見えなくて……シオンは一同の顔を見回しておずおずと問う。
「みなさんはその……驚いたりしないんですか?」
「いやまあ、驚きはしたけどな」
「あそこまで格が違うともう笑うしかないっつーか。なあ?」
「そうそう。あんな無茶苦茶なことしでかすやつが俺らの同期なんて誇らしいよ。俺らも負けてられねえよな」
「……みなさん。ありがとうございます」
シオンは彼らに頭を下げる。
こんなに大勢の人々に笑顔で祝福されたのなんて……生まれて初めてのことだった。
(すごいな、昔じゃ考えられないや……それもこれも、師匠のおかげです)
シオンはこっそりとダリオに笑いかけるのだが――。
【バカを言え。我の手柄のはずがあるか】
しかし、ダリオはふんっと鼻を鳴らしてみせた。
言い含めるようにして続けることには――。
【我は単に道を示しただけに過ぎぬ。ここまで来たのは汝自身の力だ。ゆえに誇れ。胸を張れ。ダリオ・カンパネラの弟子として恥じぬようにな!】
(……はい!)
シオンは剣の柄を握り、もう一度笑みを向けた。
初めての勝利が胸にしみる。
しかし、その喜びも長くは続かなかった。
「よし! このまま全員で飲みに行くぞ! 合格祝いだ!」
「おおおおお!」
「うっ……ご、合格祝いですか……」
一同が歓声を上げて、打ち上げへ向かおうとしたからだ。
なんだか紆余曲折あったものの、シオンは結局自分の試験課題をクリアできずに終わっていた。そのため、この場で唯一の不合格者である。
その事実を思い出して、ずーんと沈み込んでしまう。
だから街へ向かおうとする彼らの背中に、シオンはか細い声で告げるのだが――。
「すみません、俺は試験に合格できなかったし……合格祝いは遠慮しておきます」
「はあ?」
それを聞いた一同がぴたりと足を止めて振り返る。
全員の顔に浮かんでいるのはこの上もない渋面だ。
水を差す形になった。恐縮するシオンに彼らはずんずんと近付いてきて――がしっとその肩を掴んでみせた。
「おまえみたいな規格外がFランクになれなきゃ俺らは何なんだよ。一生かかったって合格なんかできねーよ!」
「そうだそうだ! よし、打ち上げの前にみんなでこれからギルドに直談判に行くぞ!」
「おおおおおおおお!」
「えっ、ちょっ、みなさん!?」
慌てるシオンをよそに、場の面々は先ほど以上に盛り上がりはじめる。
プリムラもフレイもにこやかにシオンの肩を叩いてみせた。
「いいじゃない、シオン。私も付き合うわ。こんな強い人が不合格なんておかしいもの」
「うむ。いっそのこと支部長に直に話を付けるというのなら私もよろこんで協力しよう。久々にあいつの顔を見ておきたいしな」
【くくく、ここに来て味方が大量だな。よかったではないか、シオン】
「いやいや!? そんな抗議したからって合格できるわけないじゃないですか! 公的な試験なんですよ!?」
大声でツッコミを叫んだものの、シオンは大勢に抱えられるようにしてギルドまで連行された。
そして――。
「え、マジ? そんだけ強いなら、実質Aランクくらいじゃん。そんなら今回は合格ってことにしといてあげるね~」
「いいんだ……」
話を聞いたギルドの支部長というのが、やたらと軽く了承してくれて、シオンは無事にFランクへと昇格することとなった。
本当にいいのかなあ……と思いつつも。
本章これでラスト!お付き合いいただきましてありがとうございます!
そして感想返信遅れて大変申し訳ございません。すべてありがたく目を通しておりますので、返信のんびりお待ちいただけると幸いです!
明日からも毎日更新予定で新章になります。さめが一番書きたかったところです。




