ドラゴンデリバリー
ざわつく場をよそに、シオンは肩を落としてうなだれるしかない。
「それが、ブルードラゴンってどんな魔物だか知らなくってさ……青かったから、てっきりあいつがそうなのかと」
「だから神竜を倒したの!? しかも三匹も!」
「へえ、あいつら神竜っていう名前なんだ。やっぱりプリムラは物知りだね」
「正しくは神竜族のひとつなんだけど……って、そんなことはどうでもいいから! 勘違いであんな偉業を成し遂げたの!? 嘘でしょ!?」
「大げさだなあ……あいつらそこそこ強かったけど、そこまで言うほどじゃないと思うよ?」
慌てふためくプリムラに、シオンは苦笑を返すしかない。
そう、そこそこ強かったが――そこそこでしかない。
(めちゃくちゃ強いっていうのは……あんなドラゴンたちじゃなく、師匠みたいなのを言うもんなあ)
基準が世界最強レベルのシオンにとって、神竜などちょっと歯ごたえのあるモンスターに過ぎなかった。勝てて嬉しかったのは確かだが、感想としては『いい運動になったなあ』くらいのものである。
しかしシオンが肩をすくめるだけで、ますます周囲がざわざわし始めた。
「ふっ……がはははは!」
「は、はい?」
そこで割れんばかりの哄笑が上がった。
もちろん笑い声の主はグスタフだ。
彼は腹を抱えて目尻に涙をためて、ひいひい悲鳴のような呼吸音をこぼして笑い転げる。
「し、神竜とはあれか……? 山頂に住まう、あのセイランミズチのことか……?」
「あ、いや、名前は知らなかったんですけど……たぶんそれですかね。青色で、蛇みたいな形の――」
「ふっ、ふははははは! 笑わせてくれるわ!」
シオンの台詞を遮ってグスタフはなおも笑い続ける。
びしっとシオンの鼻先に人差し指を突きつけて、つばを飛ばして並べ立てることには――。
「あの神竜は、Cランクの者ですら苦戦する難敵! それをよりにもよって無神紋の貴様が倒しただと……? バカも休み休み言え!」
「そう言われても、本当に倒しましたし……」
「そ、そうですよ!」
シオンが頬をかいてぼやくと、プリムラも声を上げてくれる。
「シオンは本当にあの神竜を倒したんです! しかも三匹も! 私が全部この目で見ました!」
「ふん、極彩色の射手の妹ともあろう者までそんなデタラメを抜かすとは。何があったかは知らんが、無心紋に肩入れするなど、どうかしているとしか思えんな」
「えええっ!? 私もシオンも、嘘なんか言ってません!」
プリムラは必死になって食い下がるが、グスタフはまるで耳を貸そうとはしなかった。
おかげでシオンはムッとするのだ。自分の話を信じてくれないから――ではない。
(……俺が笑われるのは別にいいけど、プリムラまでバカにされるのは気に食わないな)
ダリオも気分を害したらしく、ふんっと鼻を鳴らしてみせる。
【まったく、グダグダとやかましい男だな。そこまで言うのなら証拠を突きつけて黙らせてやるといい】
「あ、それもそうですね」
「はあ……?」
シオンが脈絡もなしにぽんっと手を叩いたせいで、グスタフは怪訝そうに眉を寄せた。
そんな彼にはおかまいなしで、シオンはきびすを返して山へと向かう。
「それじゃ、ここに全部持ってきます。この試験会場ってけっこう狭いし、さすがに邪魔かなあと思って今も山に置いてあるんですよね」
「お、置いてある、だと……? いったい何の話だ?」
「ちょっと待っててくださいね!」
戸惑うグスタフにもかまうことなく、シオンはもう一度山へと入った。
まっすぐ山頂まで駆け上り、荷物を担いで山を下る。目的地が決まりきっていたため、わずか一分ほどで完走できた。
「お待たせしました!」
試験会場の中央に、巨大な荷物をドスンと下ろす。
もちろん、シオンが倒した神竜三匹だ。
竜の死体を積み上げれば、焦げた魚のような匂いがあたり一帯に充満する。
シオンはグスタフに向かってハキハキと告げた。
「どうぞ、これが証拠です。プリムラは嘘なんかついていません」
「「「…………」」」
「まあでも、ブルードラゴンじゃないから、俺の試験結果には何の関係もないんですけど……えっ、あれ……?」
ため息をこぼしてぼやくシオンだったが、ふと周囲の様子がおかしいことに気付く。
その場の全員が全員、目を見開いたままフリーズしていたからだ。
そこにはもちろん、あのグスタフも、おまけにフレイまでもが含まれていた。
ドン引き、というに相応しい空気だった。
続きは明日更新します。この章長くなってしまった……!
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