表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

43/119

ドラゴンデリバリー

 ざわつく場をよそに、シオンは肩を落としてうなだれるしかない。


「それが、ブルードラゴンってどんな魔物だか知らなくってさ……青かったから、てっきりあいつがそうなのかと」

「だから神竜を倒したの!? しかも三匹も!」

「へえ、あいつら神竜っていう名前なんだ。やっぱりプリムラは物知りだね」

「正しくは神竜族のひとつなんだけど……って、そんなことはどうでもいいから! 勘違いであんな偉業を成し遂げたの!? 嘘でしょ!?」

「大げさだなあ……あいつらそこそこ強かったけど、そこまで言うほどじゃないと思うよ?」


 慌てふためくプリムラに、シオンは苦笑を返すしかない。

 そう、そこそこ強かったが――そこそこでしかない。


(めちゃくちゃ強いっていうのは……あんなドラゴンたちじゃなく、師匠みたいなのを言うもんなあ)


 基準が世界最強レベルのシオンにとって、神竜などちょっと歯ごたえのあるモンスターに過ぎなかった。勝てて嬉しかったのは確かだが、感想としては『いい運動になったなあ』くらいのものである。

 しかしシオンが肩をすくめるだけで、ますます周囲がざわざわし始めた。


「ふっ……がはははは!」

「は、はい?」


 そこで割れんばかりの哄笑が上がった。

 もちろん笑い声の主はグスタフだ。

 彼は腹を抱えて目尻に涙をためて、ひいひい悲鳴のような呼吸音をこぼして笑い転げる。


「し、神竜とはあれか……? 山頂に住まう、あのセイランミズチのことか……?」

「あ、いや、名前は知らなかったんですけど……たぶんそれですかね。青色で、蛇みたいな形の――」

「ふっ、ふははははは! 笑わせてくれるわ!」


 シオンの台詞を遮ってグスタフはなおも笑い続ける。

 びしっとシオンの鼻先に人差し指を突きつけて、つばを飛ばして並べ立てることには――。


「あの神竜は、Cランクの者ですら苦戦する難敵! それをよりにもよって無神紋の貴様が倒しただと……? バカも休み休み言え!」

「そう言われても、本当に倒しましたし……」

「そ、そうですよ!」


 シオンが頬をかいてぼやくと、プリムラも声を上げてくれる。

 

「シオンは本当にあの神竜を倒したんです! しかも三匹も! 私が全部この目で見ました!」

「ふん、極彩色の射手の妹ともあろう者までそんなデタラメを抜かすとは。何があったかは知らんが、無心紋に肩入れするなど、どうかしているとしか思えんな」

「えええっ!? 私もシオンも、嘘なんか言ってません!」


 プリムラは必死になって食い下がるが、グスタフはまるで耳を貸そうとはしなかった。

 おかげでシオンはムッとするのだ。自分の話を信じてくれないから――ではない。


(……俺が笑われるのは別にいいけど、プリムラまでバカにされるのは気に食わないな)

 

 ダリオも気分を害したらしく、ふんっと鼻を鳴らしてみせる。


【まったく、グダグダとやかましい男だな。そこまで言うのなら証拠を突きつけて黙らせてやるといい】

「あ、それもそうですね」

「はあ……?」


 シオンが脈絡もなしにぽんっと手を叩いたせいで、グスタフは怪訝そうに眉を寄せた。

 そんな彼にはおかまいなしで、シオンはきびすを返して山へと向かう。


「それじゃ、ここに全部持ってきます。この試験会場ってけっこう狭いし、さすがに邪魔かなあと思って今も山に置いてあるんですよね」

「お、置いてある、だと……? いったい何の話だ?」

「ちょっと待っててくださいね!」


 戸惑うグスタフにもかまうことなく、シオンはもう一度山へと入った。

 まっすぐ山頂まで駆け上り、荷物を担いで山を下る。目的地が決まりきっていたため、わずか一分ほどで完走できた。


「お待たせしました!」


 試験会場の中央に、巨大な荷物をドスンと下ろす。

 もちろん、シオンが倒した神竜三匹だ。

 竜の死体を積み上げれば、焦げた魚のような匂いがあたり一帯に充満する。


 シオンはグスタフに向かってハキハキと告げた。


「どうぞ、これが証拠です。プリムラは嘘なんかついていません」

「「「…………」」」

「まあでも、ブルードラゴンじゃないから、俺の試験結果には何の関係もないんですけど……えっ、あれ……?」


 ため息をこぼしてぼやくシオンだったが、ふと周囲の様子がおかしいことに気付く。

 その場の全員が全員、目を見開いたままフリーズしていたからだ。

 そこにはもちろん、あのグスタフも、おまけにフレイまでもが含まれていた。

 ドン引き、というに相応しい空気だった。

続きは明日更新します。この章長くなってしまった……!

まだまだ毎日更新で頑張りますので、応援いただければ嬉しいです。

感想返信滞っておりますが、ご感想も大歓迎です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 無自覚って恐ろしいなあ・・。
[気になる点] 明らかな越権行為を大衆の面前で宣言した訳だし、グスタフはクビになりそうだな。
[一言] まあ、おもしろいが、足りんな。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ