無謀の代償
町の裏手に広がるその森には、狩人や木こりも立ち入らない。
この辺りには魔物が多数棲息しており、非常に危険だからだ。
とはいえそう高レベルの魔物はいないため、新米冒険者が経験を積むのには最適な場所でもあった。
自らの力量を推し量り、慎重に行動することができれば危険はない。
裏を返せば、無茶をするとそれ相応に痛い目を見るということで――。
「やめようよ、ラギ……! 無謀すぎる!」
「はっ、ビビってんのかよ。腰抜けが」
小高い丘の茂みに身を潜めるパーティ一行。
そこから見下ろす窪地には、ゴブリン達の集落があった。
ざっと見た限りの数は二十ほど。
シオンたちの場所は風下にあたるためか、こちらの様子には気付いていない。イノシシなどの獲物を巡って揉めていた。
ラギ達は休憩中に付近を散策し、この巣を発見したらしい。
そして、あそこを今から叩くという。
ラギは不敵な笑みを浮かべてみせる。
「おまえみたいな無能と違って、俺には十匹なんて物足りねえんだ。せっかく森まで来たからには、もっと多くの手柄がほしいと思うのは当然だろ」
「だからって巣を叩くなんて正気じゃない! 名のある冒険者パーティだって、下手に手を出せば痛い目を見るんだぞ!」
ゴブリンは初心者でも倒せるような低レベルのモンスターだ。
だがしかし、繁殖力と連携能力が非常に高い。
油断すればあっという間に囲まれて、それなりに場数を踏んだ冒険者でも深手を負わされてしまう。
それゆえ、一匹一匹を分断させて各個撃破する戦法がセオリーとなっていた。
巣を直接襲撃するなんて悪手もいいところだ。
そう説明するのだが、ラギは意にも介さない。
「そんなちんたらしてたら日が暮れちまう。俺ならあれくらいの数楽勝だ」
「そうよそうよ! ラギくんなら大丈夫よ! 役立たずのシオンは黙ってなさいよね!」
「まあ、ラギがそう言うならな任せるかな」
「右に同じー。ラギがいるならあっという間だろ」
他の仲間達は危機感などまったくなく、実に気楽なものだ。
それに気を良くしたのか、ラギはニヤリと笑ってレティシアを示す。
「おまけに俺たちにはレティシアの魔法があるんだ。怖い物なしだろ」
「えっ……で、でも……」
レティシアは口ごもり、青い顔でうつむいてしまう。
シオン同様不安を覚えているようだが、強く出られないらしい。
「だからって危険すぎる! やるならもっと他にやり方が――」
「黙れ! 無能が俺に指図するんじゃねえ!」
ラギはとうとう怒声を上げる。
格下のシオンにとやかく言われるのが、よほど腹に据えかねたようだ。
その勢いのままに立ち上がり、剣を抜いてゴブリン達を指し示す。
「ここは正面突破あるのみだ! 行くぞ、おまえら! 俺に続け!」
「ラギ!?」
ラギは先陣を切り、丘の斜面を滑っていく。
もちろんすぐにゴブリン達が気付いた。
飛び出してきた一体をラギが斬り捨てると同時に強い風が吹き、あたりに血の臭いをまき散らす。それが開戦の合図となった。咆哮と怒声がいくつも折り重なって空気が痛いほどに張り詰める。
「ラギくんったらかっこいい~♪ 私たちも行くわよ!」
「おう! 頼んだぞ、レティシア!」
「きゃっ……!」
「待てって!」
他の仲間達も、レティシアを無理矢理連れて飛び出していった。
シオンも少し遅れてそれに続く。
自分の剣はゴブリンに通用しない。それでも黙って見ていることはできなかった。
「遅えぞおまえら!」
丘を下り終えると、ラギがちょうど十体目の首を斬り飛ばしたところだった。
ほかの仲間達も剣や魔法で応戦し、瞬く間にゴブリン達の数が減っていく。
シオンを見て、ラギは返り血を拭うこともなく酷薄な笑みを浮かべてみせた。
「はっ、見ろよ無能。この俺にかかれば、ゴブリンなんて敵じゃ――」
「ラギ! 後ろだ!」
「ああ……っ!?」
ラギが怪訝そうに振り返った瞬間、その笑顔が凍りつく。
その背後。シオンたちが潜んでいた丘からは、死角になった場所。
そこには大きな洞穴が開いていた。
地響きを上げながら、その穴から巨大な影が這い出てくる。
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