雑魚戦
シオンが駆け出し、それが始まりの合図となった。
ドラゴンたちが一斉に咆哮を上げる。翼を大きく広げて滑空し、シオンへ向かう。
こちらは剣を抜きつつ呪文を手早く詠唱。
空いた左手をかざし、魔法を解き放つ。
「《ライトニングボルト》!」
空を切り裂いて、幾本もの巨大な雷が落ちてくる。それらはドラゴンたちを打ち据えて、乾いた大地に鎮めていった。しかし、それですべてのドラゴンを撃退できたわけではなかった。
地に落ちたのは半数以下。
残りは雷に打たれてよろめきながらも飛行をやめることがなかった。ドラゴンたちの喉の奥からシアンブルーの光が瞬き、ビームとなってシオンを襲う。
シオンはそれらを軽いステップでかわしていった。
ビームが直撃した地面は一瞬にして凍り付き、あたりの空気を凍てつかせる。
ちらほらと粉雪の舞い散る中、シオンはドラゴンたちを睨み付ける。
「それなりに育った個体には、生半可な魔法は効かないか……!」
ともかく逃げ回りながらも次の一手を考える。
その間もドラゴンの猛攻は続いた。
ビームだけでなく、翼や尻尾による打撃、大きな顎門による噛み付き、シンプルな体当たり……それらをシオンは最小限の動きだけで回避していく。
しかし、敵は空を駆けるドラゴンだ。
地上を走るだけのシオンとは、比べものにならない機動力を秘めていた。
そのことに遅ればせながらも気付いたのは、ビームを避けて真正面に跳んだとき、頭上から音もなく巨大な影が舞い降りた。
どうやらシオンの回避を読んで仕掛けてきたらしい。
間髪を開けずに、シオンの身長をゆうにしのぐほどの大顎門が迫り来る。
「うわっ」
さすがのシオンもこれには少し肝を冷やした。
直前に行った回避行動のせいで体勢は不安定。
まさに絶体絶命の瞬間ではあったが……修行で嫌というほど積んだ経験のおかげで、体は正確に動いていた。選んだのは退避ではなく迎撃だ。魔法を唱える暇はない。
「こっ、の……!」
魔剣を握りしめ、ぐらつきながらも一太刀を放つ。
わずかでも傷を負わせることができればドラゴンが怯むはず。その隙に体勢を立て直すつもりだった。
しかしシオンのその計画は、次の瞬間に崩れ去る。
「ギャッ――――!?」
「……へっ?」
シオンの放った斬撃が衝撃波と化し、敵を一瞬で切り裂いたからだ。
ドラゴンは短い断末魔を上げて地面に墜ちる。ちょうど胴の真ん中あたりで真っ二つだ。あたりに血飛沫が飛び散って、鼻が曲がりそうなほどひどい臭気が満ちる。
そんな中、シオンは呆然と剣を握った己の手を見下ろした。
「えええ……い、一撃で倒せちゃったんですけど……?」
【何を驚く、シオン】
ダリオは呆れたように唸る。
【汝は我が弟子だぞ。魔法だけでなく、剣も世界最強クラスに決まっているだろうに】
「し、知らなかった……」
派手な魔法をぶちかませるので、それなりに戦えることは自覚していた。
しかし剣の腕まで人外レベルとは思いもよらず、シオンはしみじみと己の実力を噛みしめる。
(この前のラギとの一戦だと、ほとんど剣なんか使わなかったし……師匠としか斬り合ったことなかったから、全然気付かなかったな……)
ドラゴンを一太刀のもとに斬り捨ててしまったからだろうか。他の仲間たちは低く唸りつつもシオンから距離を取って攻撃の手を止めていた。
岩陰から顔を出してハラハラ見守っていたはずのプリムラも、目を丸くして固まってる。
しん、と静まりかえった中――ダリオは愉快げに言う。
【ともあれ、ようやく親玉が本気になったようだな】
「……みたいですね」
ドラゴンたちがシオンに猛攻を仕掛ける最中、親玉はじっと巣に留まったままだった。
それが今、ゆっくりと身を起こす。
起き上がった巨体は、他のドラゴンたちの何倍もあるように見える。
シオンの力量を、手下たちを使って値踏みしていたらしい。そして、その結果がとうとう出たようだ。相手にとって不足なし、そう判断したらしい。
親玉は仲間の亡骸を一瞥して――。
「グゥルア――――ガアアアアアアアアア!」
空高く哮えた。
その双瞳はシオンのことをしかと捉え、ありったけの害意に満ちていた。
咆哮によってあたりの岩にヒビが生じて砕け散る。
他のドラゴンたちが身を引いて、開いた場所に親玉が降り立った。
かくしてボスとの対決の場が整った。
シオンは意識を切り替える。
(これなら、この親玉にも勝てるかもしれない。いや、なんとしてでも勝つんだ)
魔剣を握り直し、シオンは親玉をまっすぐに見据えて――告げる。
「さっきので二匹目だから……おまえを倒せば三匹クリアだな」
続きは明日更新します。
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