竜の巣へ
やつらの巣は、山頂から少し東に進んだ場所にあった。
針山のような岩が立ち並ぶエリアである。
大小様々な岩が天に向かって伸びており、さながら石でできた森の中に迷い込んでしまったような光景だ。空気も薄くてひどく寒い。
そして中でも時に巨大な岩の真上は平たくなっており、枝などを組み合わせた巨大な巣が見える。
山道を通る行商人を襲って奪ったのか、高級そうな織物の絨毯なども巣材にされてしまっていた。
その巣の中で、青白く輝くドラゴンたちが何匹もくつろいでいるのが見える。
岩陰から巣の様子をうかがいつつ、シオンは軽く片手を上げる。
「よし。ちょっと行ってくるね」
「ちょっと待って本気!?」
隣にいたプリムラが悲鳴に近いツッコミを上げる。
顔色はドラゴンに襲われそうになっていたときよりも青白い。
シオンの手を引き留めるようにして握って、カタカタ震えながら言う。
「案内した手前言うのもなんだけど……見てよ、あれ! 巣の中で一番大きい個体がいるでしょ!」
言われて見れば、一匹だけ周囲の仲間より二回りも大きな個体がいた。
大きな刀傷で右目が潰れ、体中にも大小様々な傷跡がある。しかしその佇まいは雄大であり、相当な実力を秘めているであろうことが一目でわかった。
「あいつは一番長生きの個体で、ドラゴンたちのボスなの。手出しして生き残った冒険者はひとりもいないわ……! のこのこ出て行くなんて自殺行為よ!」
「そう言われても、あれ三匹を倒してこいって言われたからなあ」
シオンは肩をすくめるしかない。
今回のFランク試験に合格するためには、あのドラゴンを計三匹倒す必要がある。
残り時間はあとわずか。それなりに大きい獲物なので、運ぶ時間も考えるとますます猶予がなかった。さくっと倒して、山を下りねばならない。
そう説明するのだが、プリムラはますます顔を青ざめさせるだけだった。
「そんな馬鹿な……Fランク試験の難易度をはるかに逸脱しているわよ!」
「まあ、それだけ俺を試験に落としたいんだろうね」
フレイと衝突していたあの試験官――グスタフと言ったか。
彼は相当、無神紋への偏見が強いらしい。無理難題をふっかけてシオンを落とそうとする……それくらいはやりそうだ。
(だったらその企みを……真正面から叩き潰すだけだ)
シオンはぐっと拳を握りしめる。
後押ししてくれたフレイのためにも、そして修行をつけてくれたダリオのためにも、どんな敵だろうと引くわけにはいかない。
それに、これはあの修行の日々を終えて始めて出くわす強敵――ラギはノーカウントとして――だ。恐怖は薄く、胸が踊る。
「じゃ、行ってくるから。プリムラはここで隠れてて!」
「し、シオン!?」
プリムラの手をそっと振りほどき、シオンは岩陰から出て行った。足取りはとても軽い。
そのまままっすぐドラゴンたちの巣へと歩く。
くつろいでいたドラゴンたちは、突然の客人の気配を察して首をもたげる。
冷えた空気が張り詰めていく。中でもプリムラがボスと呼んでいた一匹は目を細めてシオンのことをじっと見つめた。
いや、ドラゴンの視線が注がれているのはシオンだけではない。シオンの腰に下がった魔剣、ダリオのことも含んでいた。
普通の人間、普通の剣とは何かが違う……そう、訝しんでいるようだった。
【おお、近くで見るとなおデカいな】
「本当ですね。俺なんて多分一口で食われちゃいますよ」
師とともにシオンは軽口を叩く。
ドラゴンの親玉は先ほど戦ったものよりはるかに大きく、ひょっとするとあれは子供だったのかもしれないと思った。そうなると、親玉の強さはいかほどか。
竜の巣から百メートルほど離れた場所でシオンは立ち止まる。
そこが境界だと察したからだ。
ドラゴンたちが体を起こし、低いうなり声を上げはじめた。
「グルウウウウ……!」
ひりつくような殺気が迸り、乾いた風が吹きすさぶ。
一触即発。
シオンは剣の柄に手をかけて――抜くと同時に駆け出した。
「よし! 行きます、師匠!」
【おうとも! トカゲどもに目に物を見せてやれ!】
続きはまた明日更新します。
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ちなみに本章はあと六話(予定)。そこまでしか書き溜めがないのでもりもり書きます……!




