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ミッション開始

本日ラスト!

 その一時間後。

 シオンはデトワール山脈のただ中を、封書を握り締めて歩いていた。

 

 Fランク試験の内容は実にシンプルなものだった。

 受験者それぞれにミッションが出され、それを日暮れまでに達成すると合格だという。

 ミッションの内容はさまざまで、モンスターを狩ってこいだの、貴重な薬草を探してこいだの、ほとんど被ることはないらしい。


 受験者が時間をおいて順々に山へと入り、最後がシオンの番だった。

 しばらく山道を歩いてから、シオンはあたりを見回す。

 ほかの受験者はもうずいぶん先に行ってしまったようで、あたりには何の気配はない。


「さてと、そろそろミッションの内容を確認するかな」


 グスタフという中年男から渡された封筒の口をびりっと破る。

 中には一枚の紙が入っていた。


「えーっと、『ブルードラゴンを三匹倒せ』……?」


 本来は『一匹』という課題だったらしいが、一の数字が乱雑に塗りつぶされて、横に三が付け足されていた。どうやらこれがシオン用に作られた難易度高めのミッションらしい。


 そう言われても、シオンにはまるでピンとこなかった。首をひねってあごを撫でる。


「ブルードラゴンって……どんなモンスターだ?」

【なんだ、知らぬのか】

「うっ……仕方ないじゃないですか」


 ダリオが呆れたように相槌を打つので、シオンは眉を寄せてしまう。


「土地ごとに、棲息するモンスターがかなり変わるって言いますし。俺の地元じゃそもそもドラゴンなんて全然見ませんでしたよ」

【そうは言っても勉強不足なのには変わりがないだろう。まったく呑気な弟子だ】

「ぐうの音も出ません……」


 これまでは体力作りや魔法の練習に追われていて、モンスターのことを勉強する以前の問題だった。

 それゆえ、比較的近い地域とはいえ、この山のモンスターについてはまったく知識がない。

 困り果てるシオンだが、ハッと思い直して魔剣を掲げる。


「でも師匠ならどんなモンスターだかご存じですよね。なんたって伝説の英雄ですし」

【はっはっは、当然だろう】


 ダリオは鷹揚に笑ってみせて、あっさりと言った。


【当然、知らんな】

「ええええ!? 師匠、世界を股に掛けた英雄でしょう!? こんなポピュラーそうな名前のモンスターも知らないんですか!?」

【そうは言っても千年以上も前だぞ。それだけあれば、魔物なんぞ如何様にでも進化するわ】

「と、言いますと……?」


 普通の動植物ならば、何千、何万年という時間を掛けて進化する。

 しかしダリオが言うには、魔物はまったく別の存在らしい。


 土地ごとの環境に柔軟に適応し、さらに大気に満ちるマナを取り込んで突然変異する。百年もあれば、どんな魔物も元の姿形からかけ離れた外見になるのが常らしい。


【我が生きている間にも、ブラック・フレアドラゴンという炎を吐く黒竜がいたんだがな。いつの間にやら体表がピンクに近い紫に変わって、炎の代わりに毒を吐くようになった。名前も変わったくらいだ】

「へえ……魔物にも色々あるんですね。ちなみにそのドラゴン、結局なんて名前になったんです?」

【デーモンクロー・ドラゴンだな】

「紫要素も毒要素も、いったいどこに行ったんですか」

【学者どもが名付けに迷っている間にまた形態が変わったんだ】

「今どうなってるんだろ、元ブラック・フレアドラゴン……」


 そんな話をしつつも、シオンは山道を外れてみることにした。

 山の中を当てもなく歩き回って、ひとまず『ドラゴンっぽいもの』を捜索する作戦である。

 生き物の痕跡を注意深く探しながら、シオンは小さくため息をこぼす。


「でも師匠がブルードラゴンをご存じなくて、良かったのかも知れません」

【ふむ、それはどうしてだ?】

「だって聞いたらカンニングになっちゃうじゃないですか。正々堂々試験に受からなきゃ、応援してくれたフレイさんに申し訳ないですよ」

【生真面目なやつめ。小狡いことを覚えた方が人生楽だぞ】


 ダリオはそう憎まれ口を叩きつつも、声は愉快そうに弾んでいた。

 そんな師に笑いながらも――シオンはふと、ミッションの紙を見下ろす。


「それにしても……どうして神紋を持たないっていうだけで、こんなに風当たりが強いんですかね」


 シオンが神紋を持たないというだけで、周囲の目ががらっと変わった。

 あれだけ親しげに話しかけてくれていた弓を持った少女――プリムラも途端によそよそしくなって、なにか言いたげにしていたものの、結局あれから言葉を交わすこともなく先に山へと入っていってしまっていた。

 

 何よりも解せないのは、ミッションの討伐目標が一匹から三匹に変わったことだ。

 どんなモンスターだか知らないが、おそらく難易度はぐっと跳ね上がっているのだろう。


「これって、俺を合格させないためですよね……どうしてこんなことをするんでしょう?」

【簡単なことだ。誰しも己と違う存在を恐れるものだからな】


 ダリオはぼやくように相槌を打った。

明日も朝夕方更新です。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 試験受けさえすればどうとでもできるだろう。 むしろ妨害があるくらいでもヌルイくらいでしょ。 というか余裕で突破位の事はして貰いたい。 [気になる点] そうか、あの弓使いもか。 まあ所詮その…
[一言] 多分青っぽいドラゴン狩っていったら実はAランクでも狩れない獲物とかでめっちゃ驚かれるんだろうなぁ。 本当は子供くらいのサイズのトカゲとかと見た。。
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