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赤獅子の後押し

また夕方にも更新します。

 中年男は、突然現れたフレイに目を丸くするばかりだった。

 周囲の冒険者達も興奮した様子で言葉を交わす。


「レオンハートって……まさかフレイ・レオンハートか!?」

「それってあの赤獅子!? 十年前に冒険者を引退したっていう、あの……!」


 ざわつく周囲の様子など気にも留めることなく、フレイはまっすぐこちらへ歩いてくる。


「すまないな、シオン。仕事を片付けていたら遅くなったんだ。間に合ってよかった」

「い、いえ。フレイさんもこっちにいらしてたんですね」

「ああ。どうせこうなるだろうと思っていたからな」


 そこでフレイは中年男を見やり、大仰に肩をすくめてみせた。

 どちらもギルド職員なので知らない仲ではないらしい。ただし、けっして良好な関係とは言えなさそうだが。

 そんな話をしているうちに、中年男はハッとして怒鳴り始める。


「いったい何をしに来た、レオンハート! その無神紋とはどういう関係だ!」

「そう気色ばむな、グスタフ副支部長どの。私は彼の応援に来ただけ。受験許可を出したのはこの私だからな」

「なっ、なんだと!?」


 グスタフと呼ばれた中年男は絶句して、周囲の職員や冒険者たちも目を丸くしてざわめいた。

 どうやらほとんどの者がフレイのことを知っているらしい。


「フレイさんって、ひょっとして有名人なんですか?」

「そうでもないさ。冒険者だったころはこの街を拠点としていたからな。単に顔を知る者が多いだけだろう」

「冒険者だったころ……ちなみに当時のランクはいかほどで……?」

「たしか十九歳のときに、Cランクに上がったところだったかな」

「Cランク……!?」


 さらっと飛び出した衝撃発言に、シオンもまた言葉を失ってしまう。

 そんな中、ダリオだけが釈然としないように唸ってみせた。


【Fから三つ上がっただけではないか。そんなに驚くものか?】

(そりゃ驚きますよ! Fランクになるのは比較的簡単だけど、それより上はめちゃくちゃ難関なんです!)


 冒険者の中でも、Cランクまで上り詰めることができる者は二割程度だ。

 ほとんどの者がFのまま終わり、Eに上がった者はそれなりにもてはやされる。

 十代の若さでCランクなんて、故郷の田舎では聞いたことがない。天才と呼んでしかるべき業績だ。


 シオンはフレイの顔をしげしげと見つめるしかない。


「俺、知らないうちにすごい人と知り合いだったんですね……」

「なあに、おまえに比べれば私などたいした物ではないさ」


 フレイはさっぱりと笑ってみせて、グスタフに向き直る。


「彼はたしかに神紋を持たない。だが、実力のほどはこの私が保証しよう」

「き、気でも狂ったか、レオンハート! 無神紋の肩を持つなど正気の沙汰ではない!」

「何とでも言ってくれてかまわんさ。ただ、副長どのがこのままシオンの受験を認めないというのなら……私はそちらの支部長に直談判しなければいけなくなるだろうな」

「くっ……! 支部長の昔の仲間だからといって、大きな顔をしおって……!」

 

 フレイとグスタフはバチバチと火花を飛ばして睨み合う。

 どうやら相当仲が悪いようだった。ハラハラ見守るシオンをよそに、周囲の者たちは顔を見合わせて盛り上がり始める。


「つまりあいつって、あの赤獅子が認めた冒険者なのか……!?」

「でも無神紋だろ。何の才能もないって聞くぞ」

「わかんねえぞ……ひょっとしたら何か切り札があるのかも」

「い、いったいどんな実力者なんだ……!?」


 誰もがごくりと喉を鳴らし、シオンを見つめる。

 中には先ほど声をかけてくれたプリムラもいた。彼らの視線からは侮蔑が消えて、かわりに強い興味が感じられた。

 やがてグスタフが諦めたようにかぶりを振る。


「いいだろう、その無能の受験を許可する……ただし!」


 びしっとシオンに人差し指を向け、彼は勢いよく言い放った。


「無神紋がランク試験を受けるなど、前例がない! それゆえ合格基準は他の受験者より厳しくするが……それでいいな!」

「かまわん」

「えええっ!?」


 フレイは鷹揚にうなずいてみせた。

 うろたえるシオンに、彼はいたずらっぽくウィンクする。


「そう怖気付く必要もあるまい。Fランクの試験など、多少難易度が上がってもおまえなら楽勝だろうよ」

「で、でも、ここで俺が失敗したら、フレイさんにご迷惑がかかるんじゃ……」


 いわば同業者の仕事を邪魔して、喧嘩をふっかけたようなものだ。ここでシオンが結果を出せなければ、当然フレイの評判も落ちるだろう。

 心配するシオンだが、彼はニヤリと笑って右手をひらりと掲げてみせる。


「かまうものか。おまえは私の腕を治してくれた恩人だ。それに報いたいと思うのは当然のことだろう?」

「フレイさん……」

「私はチャンスを与えることしかできない。それを掴むかどうかはおまえ次第だ、シオン」


 その言葉がシオンの胸を打った。

 信頼と期待に、体の底から力が湧き上がる。ダリオも愉快そうに笑った。


【くくく……この男め、なかなか言うではないか。さあどうする、我が弟子よ】

「俺は……!」


 シオンはぐっと拳を握り、グスタフを見据えてはっきりと言った。


「やります! どんな難題だって乗り越えてみせます!」

また夕方にも更新します。



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― 新着の感想 ―
[一言] 勿論打算でやったわけじゃないけどいい後ろ盾を得たな。
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