次の目標
本日ラスト!
カーテンの隙間から、糸を引いたような朝日が差し込んだ。
窓の外から響くのはかすかな鳥の声。穏やかな朝がやってきた。
カーテンが揺れる動きに合わせて光が顔をちらついて、シオンは目を覚ました。まぶたを開き、ぼやけた視界が段々とクリアになっていき――。
「っ~~~!」
シオンは絶叫しそうになる。
それをグッと堪え、かわりに唇を噛み締めた。
「すう……すう……」
何しろすぐ目の前に、レティシアの寝顔があったからだ。長いまつ毛が数えられるほどに近い。規則正しい寝息が頰にかかり、シオンは背筋がぞわぞわした。
まさか本当に一線を越えてしまったのか――と一瞬ヒヤリとするが、すぐに昨日のことを思い出す。
(そ、そうか、どっちがベッドを使うか決まらなくて……結局ふたりで寝ることにしたんだっけ)
互いに背を向けて、極力離れて眠りについたはずだが……今や完全に向かい合い、ほとんどゼロ距離だ。
レティシアをよく見ればパジャマがはだけ、胸元がちらりとのぞいていた。太ももがシオンの足に触れていて、すべすべの肌の感触が暴力的だ。
いい匂いがするし、温かさが心地よい。
シオンはごくりと喉を鳴らした。
ずっとここで寝ていたい。
だがその誘惑を、シオンは鉄の意志で跳ね除けた。
(そーっと出よう……起こさないように、そーっと……)
これ以上はどうにかなってしまいそうだった。それに、レティシアが起きた時のことを考えると気まずすぎる。気配も物音も殺し、シオンはベッドから抜け出そうとするのだが――。
「うう……」
「うん……?」
そこで、レティシアの眉がぴくりと動いた。
夢を見ているのだろう。安らかだったはずの寝顔は苦しげな表情へと変わってしまう。
唇からこぼれ落ちるのは、ひどくか細い寝言だった。
「どこに……でも、私…………いや……やだ……」
寝言は途中で途切れ、かわりに穏やかな寝息がこぼれ落ちる。寄せられていた眉も元どおりだ。
そんな彼女を見つめて、シオンは小さく吐息をこぼす。
(やっぱり、何か事情があるんだろうな……)
レティシアは神紋を持たないシオンにも優しく、何度も手を差し伸べてくれた。
今も突然強くなったシオンに対して態度を変えずにいてくれている。だから、彼女の力になりたいと強く思った。
シオンはぐっと拳を握ってうなずく。
「よし、今度ちゃんと困っていることがないか聞いてみよ……うん? 誰だろ」
自分に何ができるか分からないが、見て見ぬ振りを続けるよりはずっといい。
そんな決意を固めた折、部屋の扉が控えめに叩かれた。
「は、はい。今出ます」
宿の人だろうか。レティシアを起こさないように足音を殺し、ドアを開ける。
するとそこには意外な人物が満面の笑みを浮かべて立っていた。
「おはよう、シオン。探したぞ」
「ふ、フレイさん……?」
にこやかに右手を挙げてみせるのは、冒険者ギルド支部長のフレイだ。シオンが右手の怪我を治したからか、いつものガントレットは外していた。
予想外の客人に目を丸くしつつ、シオンは軽く頭を下げる。
「おはようございます、フレイさん。何かご用ですか……? っていうか、何で俺がここにいるって分かったんです?」
「なに、街中の宿を虱潰しに当たっただけだ。おまえに少し話があってな」
「話……ひょっとして腕の傷が痛むとかですか?」
シオンが治したフレイの腕におかしな点は見当たらない。しかし当人にしか分からない違和感などがあるのかもしれなかった。
そう考えてシオンはハラハラするのだが、フレイはからりと笑うばかりだ。右手をかざして、ゆっくりと指を動かしてみせる。
「まさか。腕の方は絶好調だ。あれから適当な冒険者をつかまえて手合わせしたんだが、昔よりも調子がいいくらいだ」
「それはよかった……。でも、それじゃあどんなご用件です?」
「なに、治療の礼だ。おまえにいい話を持ってきた」
フレイは懐から一枚の羊皮紙を取り出して、シオンの目の前にかざしてみせる。
形式張った文章が並ぶその下には、彼のサインと判子がでんっと飾られていた。
そして冒頭にはこう書かれている。
いわく――冒険者Fランク昇格試験受験許可証。
「デトワールの街まで行って、昇格試験を受けてこい。支部長権限でおまえの受検資格をねじ込んだ」
「はい!?」
いっそ清々しいほどの職権濫用をフレイは堂々と言ってのけた。
明日も複数回更新します。
次章、昇格試験編!お楽しみいただければ幸いです!
次章は十五話程度。その次の章が、さめがもっとも書きたい章となります。それまでは毎日更新の予定です。
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