冒険者階位制度
また夕方に一回更新します。
「「ぐぶっ!?」」
「し、シオンくん……!?」
昏倒した男たちをゴミ捨て場に転がして、目を丸くするレティシアの手を引いて早々と部屋へと戻る。
手狭な一室に入って早々、シオンはレティシアの肩をがしっと掴んだ。
「大丈夫!? 何もされなかった!?」
「は、はい。大丈夫、です」
レティシアは目を瞬かせながらも、ぎこちなくうなずいた。
おかげでシオンはほっと胸をなで下ろすのだ。
「よかったあ……それにしても、なんで外にいたの? 宿の人に話してくるって言ってたのに」
「それが、その……このお宿にはもう空き部屋がないみたいなので、他のお宿を探しに行こうと思いまして……」
それで外に出てすぐ、さっきの男たちに絡まれてしまったらしい。
レティシアはそう言って、申し訳なさそうに縮こまってしまう。
「私と一緒だと、シオンくんがゆっくり休めないかもしれないな、って思って……結果的に迷惑かけちゃいましたね。すみません」
「うっ……そ、そんなことないよ。大丈夫」
意識しすぎて挙動不審になっていたことは包み隠し、シオンは眉をひそめる。
「それより……女の子なんだから、夜に出歩くなんて危ないよ。無茶しないで」
「へ、平気です。いざとなったら切り札もありますし。これまでの旅だって、ひとりでもなんとか切り抜けて来られたんですよ」
レティシアはぐっと拳を握って意気込みを語る。
そうは言っても、シオンはハラハラするばかりだ。
(レティシアが持ってるのは白神紋だし、攻撃魔法は使えない……切り札っていったいなんだ?)
神紋ごとに、得意分野と不得意分野が存在する。レティシアの持つ白神紋は回復魔法を得意とするが、その他の攻撃魔法は一切会得できないことで有名だ。
(武術の心得があるとも効いたことないし……心配だな……あ、待てよ?)
そこでシオンは名案を思いついた。
「レティシア、次の街に行くって言ってたよね。それってひょっとして、デトワール?」
「は、はい。そうですけど……?」
デトワールというのは、ここから馬車を乗り継いで、丸一日ほど行った先にある大きな街だ。
ちょうど大きな街道が交差する地点に存在し、この街の十倍以上もの人口や広さを誇る。この地方の中心部分だ。冒険者ギルドの地区本部もここに存在する。
「それ、俺もついて行ってもいいかな?」
「えっ」
シオンの申し出に、レティシアは目を丸くする。
「女の子ひとりだと、色々大変だと思うんだ。俺もこの街だと変な評判ばっかり広まってるはずだから、新天地でスタートを切りたいっていうかさ……」
昼間ギルドで向けられた、好奇と畏怖の入り交じる幾多の視線を思い返す。
神紋を持たないはずの無能が突然強くなったのだから、人々の反応も無理もない。そんな怪しさ満点のシオンをあえて仲間に引き入れようなんて物好きは中々見つからないだろう。
だからいっそ、新しい土地で再スタートを切るのが早い。そう考えたのだ。
「だから、デトワールの街まで一緒に行かない?」
「ほ、本当にいいんですか……?」
「うん。レティシアがかまわないのなら」
「もちろん大歓迎です!」
レティシアはシオンの手を握り、ふんわりと笑う。
先ほどまでの無理をした笑顔とは異なる、心から安心したような温かな笑顔だ。握った指からも、その思いが伝わってくる。
「慣れ親しんだ街を出るときは、いつも心細かったんです。でもシオンくんが一緒なら……今回は全然寂しくありません。ありがとうございます」
「それはよかった。デトワールでもパーティの募集を探すつもり?」
「はい。一応他にも用事はありますけど……この街と同じで、パーティの求人を当たることになると思います」
「そっか。俺と一緒だね」
シオンが笑いかけると、レティシアはますます笑みを深めてみせた。
(一緒のパーティに入れるといいなあ……できたら俺がパーティを作って、レティシアを誘えば早いんだけど)
新たにパーティを立ち上げるには、それなりの条件が存在する。
ギルドへ登録料や書類を納める必要があったり、ランク無しの場合は最低五人という人数を揃えなければいけなかったり……シオンのような新米冒険者ひとりでは、パーティ立ち上げなど夢のまた夢だ。
シオンはこっそりとため息をこぼす。
(俺がもしもFランクなら、さくっとレティシアを誘えたのになあ……)
ランクとは、冒険者の格を示す基準だ。
初心者はまず第一の階位、Fランクに上がることを目指す。
それには昇格試験を受ける必要があるのだが……誰でも受験できるわけではない。冒険者としてこなしてきた依頼の数や質、名声によってギルドに認められて、初めて受験資格を得ることができる。
新米がFランクに上がる平均必要期間は約二年。
実績によって前後したりもするが、シオンはまだ何の功績も挙げていない状態だ。昇格試験の受験資格を得るのはまだ当分先のことになるだろう。
そんな切ない思いを噛みしめていると、レティシアがにこやかに部屋を出て行こうとする。
「それじゃ、今日はもう寝ちゃいましょう。受付で毛布を借りてくるので、私は床で――」
「待って」
そこで、世知辛い苦悩など一瞬で吹き飛んだ。
シオンは素早くその手を掴んで引き止める。
「女の子を床でなんか寝かせられるわけないだろ!? 俺が床で寝るから、レティシアはベッドを使ってよ!!」
「で、でも、それじゃあ助けていただいたお礼になりません! 私が床で寝ます!」
「いいや俺が床で寝る!」
「私です!」
先ほどまでのほのぼのした空気から一転、互いに一歩も譲らない口論が勃発した。
宿に一緒に泊まることは認めても、さすがにこれはシオンも折れるわけにはいかなかった。
かくして意外と強情なレティシアとの話し合いは、夜中まで続いた。
ブクマ2,000突破!応援ありがとうございます!
引き続き、この話が少しでもお気に召しましたら、ブクマや評価を押して応援いただけると嬉しいです!
ページ下部の【☆☆☆☆☆】をポチッと押して評価できます。
いくつでも嬉しいですが【★★★★★】にしていただけると、さめはたいへん喜びます……!なにとぞよろしくお願いいたします!




