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女の子と初めてのお泊まり

本日はあと二回更新します。

 日が沈み、静かな夜がやってきたころ。

 宿の一室で、シオンは頭を抱えてうずくまっていた。


「どうしてこうなった……!?」

【わはは、腹をくくれ】


 壁に立てかけた魔剣から、ダリオのからかうような声が飛ばされる。

 シオンが一文無しの宿無しだと知って、レティシアが申し出たのは宿に一緒に泊まることだった。

 宿代はもちろん食費まで出すと言い出して、彼女はいっこうに譲らなかった。


『シオンくんは私のために、ラギくんと戦ってくれたんです! これくらいお礼しないと気が済みません!』

『いやいや!? 女の子とふたりきりで宿に泊まるとか……ダメだろ、普通に考えて!?』


 パーティの元仲間とはいえ、それはさすがにマズいと思えた。倫理的に。ラギのパーティに属していた頃は女性部屋と男性部屋で分かれていたため、同じ部屋で寝ることなんて一度もなかった。

 シオンはかなり抵抗したのだが、結局根負けしてこうして宿へと連れ込まれることとなったのだった。


 レティシアがこの街に来た当初使っていたというその宿は、裏通りに位置するものの、清潔感に溢れた一軒だった。

 価格も良心的で、通された部屋は掃除が行き届いており、ベッドもふかふかだ。

 ひとりで泊まるのなら、何も言うことはないだろう。

 ただ、レティシアと一緒に泊まるとなると……問題しかなかった。


「しかもダブルベッドの部屋しか空いてないとか……どう考えてもアウトですよ!?」

【わはは、大人の階段を上るにはおあつらえ向きのシチュエーションだな】


 空いていた部屋は、大きめのベッドがひとつしかなかった。ふたりで寝るには密着しなければならず……さすがにこれはレティシアも予想外だったのか、顔を真っ赤にして固まってしまった。

 

 彼女は今、なんとか部屋を変えてもらえないか、宿の人に頼み込みに行っている。

 とはいえ時間が掛かっているところから察するに、どうも難しそうだった。


 頭を抱えて苦悶するシオンに、ダリオはからからと笑う。


【我も生前は多くの美女に言い寄られたものだ。やはりいつの時代も、女は強い者に惹かれるということだな! わはは!】

「くっ……なんでそんなに楽しそうなんですか師匠!?」

【そりゃ、可愛い弟子が意中の女子と一線を越えようとしているのだから、応援したいという親心的なものがあったり、なかったり】

「嘘だ! 俺が動揺してるのを見て面白がってるだけでしょ!?」

【なんのことだか。まあ我は空気を読める師なので、今日はこの辺で寝ることとしよう】

「寝る!? そんな人間みたいなことできるんですか師匠!?」

【ぐー】


 ツッコミを叫び終わるより先に、魔剣からは本当にダリオの寝息が聞こえてくる。

 試しに軽く叩いてみるも反応は一切なかった。


「うわ、マジで寝てる……どうなってるんだろ、この人……」

 

 まったく理屈は分からないが、考えても無駄なのでシオンは魔剣を部屋の隅に立てかけてため息をこぼす。

 これでレティシアが帰ってきたら、本当の意味で二人っきりだ。

 

「ううう……でも、ほんとに師匠の言うような展開になったらどうしよう……」

 

 部屋はそれなりに狭いため、否が応でもベッドが視界に入る。

 たぶんレティシアと横になったら、どう頑張っても腕とか足がぴたっと触れる。

 ごくりと喉を鳴らすが――シオンはハッとしてかぶりを振る。


「いやいや、レティシアは善意で言ってくれたんだ。変なことを考えるなんて失礼に決まって…………うん?」


 そこでぴたりと口をつぐむ。部屋の窓を開けてうかがえば、宿の面する裏通りが見下ろせた。

 そして、そこにはレティシアと……男ふたりが一緒にいた。


「そ、その、困ります……」

「いいじゃねえか。俺らと遊ぼうぜ」

「一人なんだろー。いいとこ連れてってやるからさ」


 怯えたようなレティシアに、男達は下卑た笑みを浮かべて迫る。顔が赤いところを見るに酔っぱらいらしい。

 典型的な、迷惑なナンパだ。

 そう思ったときには、シオンはすでに窓から身を投げ出して、落下の勢いも利用して男ふたりの首筋に手刀をくらわせていた。

日刊ハイファンタジー七位!

少し落ちましたが、まだまだ上を狙える位置……!ありがとうございます!


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[良い点] お...穏便に行こうよ...動揺してたのもわかるけどさ...
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