思わぬ申し出
本日ラスト!
レティシアの優しさに触れて胸が温かくなる。
しかし、シオンはそこでふと眉を寄せる。
「あっ、ラギといえば……ごめんね、レティシア。俺に付き合ってパーティを辞めることになっちゃって……本当に大丈夫?」
「いえ、シオンくんのせいじゃありません。元々ラギくんたちのことは、その……苦手だなあ、と思っていたので、早めに離れるつもりだったんです。みんなシオンくんに対して酷すぎました」
唇をほんのすこし尖らせて、レティシアはぼそぼそと言う。
シオンがパーティ内で奴隷のようにこき使われていることを心配してくれていたのは、メンバーの中で彼女だけだった。
レティシアは吹っ切れたように笑う。
「ちょうど路銀も貯まりましたし、次の街に行こうと思っていたところなんです。だから、ご心配には及びません」
「そっか、よかった。そういえばレティシアはこの街の人じゃなかったよね」
冒険者の中には一所に留まることなく、あちこちを転々とする者もいる。
その街、その街でパーティに入って金を稼ぎ、また次の街へ行くのだ。
レティシアもそうした流れ者のひとりだった。つい三ヶ月ほど前にこの街にやってきて、ラギにスカウトされてパーティに加入していた。
「ひょっとして修行の旅の途中? それとも、どこか行きたい場所があるとか?」
「……あはは」
レティシアはあいまいに笑ってみせる。
そのぎこちない笑顔に、シオンは二の句が継げなくなった。
(そういえば、レティシアってあんまり自分のことは話さないんだよな……)
流しの冒険者の中には事情を抱えた者も多い。
ましてレティシアのような女の子が旅をしながら冒険者を続けるとなると、よっぽどのことがあるのだろう。
いくら白神紋所持者で回復魔法のエキスパートだと言っても、相当な苦労があったに違いない。
シオンは彼女に頭を下げる。
「……ごめん。プライベートなこと聞いちゃって。今のは忘れて」
「い、いえ。私のことより……シオンくんはこれからどうするんですか?」
「そうだなあ……」
シオンは腕を組んで考えこむ。
ラギと決別したため、仲間に入れてくれる他のパーティを探さなければならない。
しかし、そううまくいくだろうか。
(さっきの感じを見るに……みんな俺のこと避けそうだもんなあ……)
先ほど周囲の冒険者達が見せた、好奇と畏怖の眼差しが脳裏をよぎる。
あの調子では、面接までこぎ着けることすら難しそうだ。
やや暗澹たる思いが胸を占める。
そこでふと窓の外を見て、シオンはため息をこぼした。
「あっ、もう夕方かあ……」
いつの間にか、空は茜色に染まり始めていた。
そのことに気付き、シオンはどっと疲労を感じてしまう。
今日一日慌ただしかったので気にする暇もなかったが、そもそも数万、数億年分の修行を終えた後なのだ。正直言って、今すぐにでも柔らかいベッドで眠りにつきたい。
シオンは頭をかいて苦笑いを浮かべてみせる。
「とりあえず……色々あったし、一晩寝てから考えようかな」
「そうですか。宿はもう決めてあるんですか?」
「え? 宿っていうか、アジトが…………あっ」
ラギのパーティは、古い一軒家を借りて拠点としている。
だがしかし、彼らと袂を分かった以上、あそこに帰るわけにもいかなかった。
そのことに遅ればせながら気付き、シオンはがっくりと肩を落とす。
「そうか、俺って今宿無しなのか……」
「し、シオンくん、大丈夫ですか……?」
「いやいや、平気平気。お金だってここに…………ないかー」
懐から財布を取り出しひっくり返すが、銅貨が数枚ぽっち転がり出てくるだけだった。
子供のお小遣いにもならない額である。
クエストの報酬はそれなりにパーティに入っていたが、シオンは最低限の分け前しかもらえなかった。その金も日々の食費や雑費でカツカツだったし、今の手持ちでは安宿一泊分も払えないだろう。
気が沈みそうになるものの、レティシアが心配そうな目を向けていることに気付いて慌てて取り繕う。
「大丈夫だって! 最悪野宿でもすればいいし、実家に戻るって手もあるからさ!」
「ご実家って……たしか山向こうの村ですよね!?」
この街から遠く離れた小さな村がシオンの故郷だ。両親は農家を営んでいる。
普通に歩くと半日ほどかかる距離だが、今のシオンなら一瞬だろう。
「うん。でも心配しないで。なんとかするよ」
だから軽い調子で言ってのけるのだが……レティシアの顔はますますこわばるばかりだった。
やがて彼女はごくりと喉を鳴らし――。
「だ、だったら、あの……!」
シオンの手をぎゅうっと握り、真剣な面持ちで言い放った。
「私が宿代を出します! 私とふたりで……いっしょの宿に泊まりましょう! 助けていただいたお礼をさせてください!」
「へ……ええええ!?」
お待たせしましたラブコメのターン!明日も複数回更新予定です。
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