明かされるステータス
本日はもう一回更新します。
かくして行われた決闘で、シオンは見事に勝利を収めてみせた。
ギルドの立会人と大勢の観客の前で白黒はっきり付けたので、ラギもレティシアのことを諦めざるを得ないだろう。今も意識を取り戻さずに、ギルドの一室で治療が続けられているらしい。
意図せぬ形で報復を果たし、レティシアも無事。
魔剣(師匠入り)を奪われることもなくなったし、まさに大団円の結末だった。
しかしシオンの心中は穏やかではなかった。
ギルド支部長の執務室――そのソファーに腰掛けながら冷や汗をかく。
そんなシオンへ、対面に座ったフレイは静かな口調で切り出した。
「説明してもらおうか、シオン」
声色こそ穏やかなものだが、顔は一切笑っていない。
彼は懐から紙を取り出してシオンの前に掲げてみせる。
「試合の前に、私はおまえに鑑定魔法をかけた。何度やってもおかしな結果が出るものだから、変だと思っていたのだが……おかしいのは私の体調などではなかった。おまえ自身だ」
紙に書かれているのは、鑑定魔法で判明するステータスだ。
大きく分けて五つに分かれるその項目は、冒険者がどの分野に秀でているかを示す。
どんなスキルや魔法を会得しているかも重要になってくるが……基本的にステータスのランクが高ければ高いほど、その冒険者は実力があるということとなる。
ちなみにシオンは以前フレイに見てもらったとき、全項目10前後だった。
無能と呼ばれるに相応しい最弱のステータスである。
「そしてこれが、おまえの今のステータスだ」
フレイが差し出した紙には、冗談のような文字が並んでいた。
【生命】……999
【魔力】……999
【筋力】……999
【器用】……999
【敏捷】……999
以下様々な項目が並ぶものの、後半は全て同じ数字だった。
鑑定魔法で見えるのは三桁の数字までで、それより上は測定不能となる。
なお、人間の平均は20程度。
つまり、事実上ほぼ最強のステータスと言えよう。
(たしか前に、ラギが【筋力】が35に上がったって自慢してた気がするなー……)
筋力が50程度あれば、たいていのパーティからお呼びがかかる。そこをシオンは全ステータス999。ちょっと想像もつかない世界だった。
「こんな値を出せるのは世界でも類を見まい。先ほどの試合から見て、この鑑定結果はひとまず本物と判断した。ならば疑問がひとつ」
フレイは凄むようにしてシオンを見据える。
「いったいどうやって、短期間でここまでの力を手に入れた。答えろ、シオン」
「は、はあ……」
フレイが怖い顔をするのも当然の流れだ。
ともかくシオンはこそこそとダリオに話しかけてみる。
(どうしますか、師匠。フレイさんなら、師匠のことを話しても信じてくれると思うんですが……)
【うむ、この男なら信用できるだろうな。少しくらいなら話してやれ】
ダリオは鷹揚に答えてみせる。
【だが、我の名は出すな。厄介なことになりかねん】
(そうですよね……賢者ダリオが現代に蘇ったなんて知られたら、大騒ぎになりますし)
【うーむ、少し騒ぎになる程度なら問題ないのだがな】
ハラハラするシオンに、ダリオは肩をすくめるようにして唸る。
わざとらしい咳払いを挟みつつ続けることには――。
【我はな、汝も知っての通り大昔あちらこちらで伝説を築いたのだ】
(存じ上げていますけど……それがどうかしたんですか?)
【うむ。具体的には邪竜ヴァールブレイムをしばき倒してパシリにしたり、吸血姫エヴァンジェリスタの根城に乗り込んで宝を一切合切略奪したり、聖堂教会を壊滅させたり……】
(待ってください、師匠。それはさすがに知りませんし、伝説っていうかただの脱法行為です)
【たいていは向こうの方から仕掛けてきた喧嘩だ。我は悪くないぞ。あと他にも、我に刃向かうバカどもを大量にボコボコにしたし――】
(うわあ……)
ダリオが指折り数えるようにして迷惑をかけた相手として挙げる名には、歴史の教科書にも載るようなビッグネームがちらほらあった。現在に渡っても繁栄している国名さえ混じる始末。
しかもその数は膨大で……聞いているうちにシオンはひどいめまいに襲われた。
【で、中にはまだしぶとく生き残っていて、我に恨みを抱く奴もいることだろう。我が弟子を取ったと知れば……最悪、やつらが矛先を汝に向けることになるぞ?】
(よし、分かりました。師匠の名前は黙っておきます!)
さすがにそれだけの恨み辛みを向けられると、ちょっと身が持たない。
シオンは固い決意を固めるが、口をつぐんだままではフレイも納得しないだろう。
しばし逡巡したものの、結局話せることだけ話すことにした。
「実は……ある人に剣や魔法を教わったんです」
「いったいどんな人物だ。この辺りの人間か?」
「それは言えません。約束なんで。でも、信頼できる人です。それだけは間違いなく言えます」
いぶかしげなフレイに、シオンはきっぱりと告げる。
方便ではなく本心だ。ろくでもないところもあるが、シオンはダリオのことを信頼している。
その思いが伝わったのか、フレイは目を細めてあごを撫でた。
「ふーむ……では、その師の元でどんな修行をしたんだ? 何か特別な指導でも?」
「普通に体力作りとか剣の素振りとか……あ、あと魔法の反復練習ですね。地味なものでしたよ」
「それをこの短期間続けただけで、その強さなのか……?」
「あはは……」
正しくは何万年という修行だったが、シオンはあいまいに笑うしかない。
フレイはガントレットの右手で顎を撫でる。考えこむときによくやる、彼の癖だ。
「ふむ。私に詳細を話せないというのなら、よほどの事情がありそうだな」
「……すみません」
「なに、謝る必要はない。冒険者に秘密は付きものだからな」
頭を下げるシオンに、フレイはわずかに相好を崩す。
ほとんど何も語っていないに等しいが、ある程度は納得してくれたらしい。
「おまえが違法な神紋手術などの禁術に手を出すとも思えないし……真っ当に修行したのだろう。だが、あれほどの力を会得したとなると、かなり苦労したのではないか」
「……そうかもしれません。何度も死にかけましたし」
シオンは苦笑して頬をかく。
何度死にかけたか分からないし、ひょっとしたら何回かは本当に死んだのかもしれない。
がむしゃらに剣を振る最中、手足が消え失せていることに気付いたときなどに覚えた腹の底からの喪失感と冷たさは、正直あまりいい思い出とは言えなかった。
「でも、それがあったからこそ今の俺がいるんです。もう心配いりません。この力で、どんな困難も乗り越えてみせます!」
「……シオン」
日刊ハイファンタジー六位!
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