反撃
本日はあと二回更新します。
ラギの剣技は、同世代の中でもずば抜けたものだった。かつて何度も剣を交え、その度まったく追いつけずにシオンは地を這った。
しかしその剣が――今のシオンの目には止まって見えるのだ。
そればかりではない。
ラギの視線や筋肉の動き、呼吸のリズムや重心の位置……そうした情報から、次の動きまでもが簡単に読み取れてしまう。
今だってダリオと話をしながら、最低限の動きだけでラギの剣をかわし続けている。
最初は嗜虐的な笑みを浮かべていたラギも、攻撃がかすりもしないことで次第に焦りを滲ませていた。
(こんなの当たる方が難しいっていうか……おかしいですよね!? 俺、どうにかなっちゃったんでしょうか!?)
【汝は何を言い出すんだ?】
ダリオは呆れたようにぼやく。
【汝は今や、かつての我に近い実力を有しているのだ。この程度の雑魚、そもそも相手にもならんわ】
「は……はいいいいい!?」
「なっ!?」
突如としてシオンが大声を上げたものだから、ラギが警戒して距離を取った。
そんな試合相手にはおかまいなしで、シオンは魔剣をかざして声を張り上げる。
「ど、どういうことですか!? 今の俺が師匠と同等の実力って……本当に!?」
【ま 全盛期の我にはまだ及ばんがな。というか、なぜ驚くのだ。あの永劫とも思える修行の果てに、汝は我を打ち破ったのだぞ。それくらいの力があって当然だろうに】
「そ、そうですけど……弟子相手だし、あのときはかなり手加減してくれたのかと……」
【ははは、面白いことを言うな、汝は。我が弟子なんぞにそのような手心を加える師だと思うのか?】
「ぐっ……言われてみればたしかに!」
わりと毎回本気で殺されかけたし、あの最後の一戦だけ手を抜いたというのは考え難かった。
(つまり俺は今、あの賢者ダリオと同じくらい強いってことか……!? ほんとに!?)
それならラギをぶっ飛ばしてしまったことも、今現在簡単に攻撃を避け続けていることにも、山でゴブリンが逃げてしまったことにも説明がついてしまう。
しかし自分が憧れた英雄と、すでに同じ高みにいるなんて……にわかには信じがたい話だった。
剣を相手にぎゃーぎゃー騒ぎ、ついには押し黙ったシオンに、他の観客たちは怪訝そうに顔を見合わせる。ダリオの声は他の人間に聞こえないからだ。
「なんだ、シオンのやつ……恐怖でどうにかなったのか……?」
「それにしたってあいつ、ずっとラギの攻撃をかわし続けただろ」
「まぐれ……じゃねえよな」
一瞬で終わると予想されていた試合がおかしな展開を見せ始めたせいか、周囲の者たちにざわめきが広がっていく。レティシアやフレイも目を丸くしてぽかんとしていた。
そして、それがラギの神経を逆撫でしたらしい。
「ごちゃごちゃと……やかましいんだよ!!」
「っ……!」
ラギが吠え、勢いよく地を蹴った。
瞬く間もなくシオンへ肉薄して間合いの内へ滑り込む。
しかしその、一般人にとっては電光石火と呼ぶべき動きでさえ、シオンの目にはあくびが出るほど退屈なものだった。
(足運びも体勢も、隙だらけだ……!)
どうとでも打ち込み、勝てる道筋が見える。
改めて対峙して、相手の力量が自分よりずっとずっと下であることを察してしまう。
ダリオもまったく同じことを感じたのだろう。笑いを噛み殺すようにして告げる。
【疑うのなら試してみるがいい。汝ならこの局面、どう切り抜ける?】
(俺、なら……?)
その言葉を聞いて、シオンの四肢に力が湧き上がった。
剣の柄へと手を伸ばす。そして――。
「ふっ……!」
地面すれすれまで身をかがめ、肉薄するラギへと一息で距離を詰めた。剣の柄でその肘を弾く。
「なっ……!?」
ラギがぐらりとのけぞり体勢を崩す。
腹が完全にガラ空きだ。シオンはそこへ、ちょんっと軽い蹴りを放つ。小指で小石を蹴飛ばすような、そんな小さな動きである。
「よっ、と」
「ゴハッッッ!?」
たったそれだけで、ラギはギャラリーの垣根へ向けて一直線にぶっ飛んでいった。
物々しい轟音と悲鳴がこだまする。
先ほどのギルド館内で起きた一幕と、ほとんど同じ光景だ。違うのはシオンが己の力に自覚的かどうかというだけ。
「おお……ほんとに強いんだな、俺」
大混乱のギャラリーたちを眺めて、どこか場違いな感慨をしみじみぼやくシオンだった。
本日はあと二回更新します。
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