ステータス確認に来てみたけど……?
本日はまた夕方にも更新します。
街の冒険者ギルドは、今日もかなりの賑わいを見せていた。
依頼を探す者や、パーティのメンバーを探す者、冒険で取得した魔物の素材や鉱石などを鑑定してもらう者……他にも併設された小さな酒場で、酒を飲んだり軽食を囲んだりする者。みな様々な目的でギルドに集う。
いくつもある窓口はほとんど埋まっていた。
それでも空きがないかと伺っていると、奥から顔見知りのギルド職員がわざわざ出てきてくれた。
窓口に現れた赤髪の男は、シオンの顔を見て柔らかく相好を崩してみせる。
「おや、シオンじゃないか。今日も来たのか」
「こんにちは、フレイさん。お久しぶりです」
彼の名はフレイ・レオンハート。
二十代後半で、右手には鉄製のガントレットを付けている。
その昔、学校にやってきて子供たちの神紋を鑑定してくれた青年だ。
今ではこの街の冒険者ギルドの支部長を務めている。
フレイは眉をひそめ、シオンの顔をまじまじと見つめる。
「久しぶり……? つい一昨日会ったばかりだろう。それより今日はラギたちと一緒じゃないのか」
「えっと、それが色々ありまして……」
「聞いてください、フレイさん! シオンくんが大変なんです!」
「なに……?」
レティシアが慌てたように切り出したため、フレイの顔が険しくなる。
それから彼女は、ことのあらましを語ってみせた。
パーティのメンバーでクエストに当たっていたこと。
無茶をしてゴブリンの巣を襲撃した結果、ラギがゴブリンキングに追いかけられたこと。
それをシオンが助けに行って、ふたりで逃げたものの――。
「《終わりの洞》の吊り橋が偶然切れて、シオンくんだけがゴブリン達と一緒に落ちたって……そう、ラギくんから聞かされました」
「ふむ、シオン。それで合っているかね」
「ああはい、それでいいと思います」
シオンは雑な相槌を打つ。
どうやらラギは自分の都合がいいように、説明をでっち上げたらしい。
(いやあ、あんまり覚えてないけど……ラギらしい気がするなあ)
ともかく話がややこしくなるので、その辺りはひとまず保留しておく。
「まったくラギときたら……多少腕が立つとはいえ、やはり素行に問題ありだな。無茶をしてパーティのメンバーを危険に晒すとは」
フレイは眉間にしわを寄せてため息をこぼす。
しかしふとシオンを見て目をすがめてみせた。
「それにしても、よくあそこに落ちて助かったな。これまで帰ってきた者は誰もいないというのに」
「あはは……運がよかったみたいですね」
笑ってごまかすシオンだが、レティシアはひどく心配そうにする。
「でもシオンくん、帰ってきてから様子が変なんです。記憶も混乱しているみたいで……だから鑑定魔法をお願いできますか?」
「もちろんだ。何か異常があれば、魔法医に紹介状を書いてあげよう」
フレイは二つ返事でうなずいて、簡単な呪文を唱え始める。
物の持つ価値を明らかにする鑑定魔法だ。
人に向けて使えば、その人がどのような状態なのか一目で分かるという。怪我を負っていないか、奇妙な呪いがかかっていないか……などなど。
そこで、シオンは慌てて声を上げる。
「あ、俺からもお願いが! 鑑定魔法を使っていただけるのなら、ついでにステータスも見ていただけますか?」
鑑定魔法で明らかになるのは、怪我や呪いの有無だけではない。
その人の能力……腕力や魔力、俗に言うステータスもおおよそ判明するという。
そう頼めば、フレイはにっこりと笑ってみせる。
「ああ、一緒に見えるから問題ない。何か気になることでも?」
「い、いえその……」
賢者ダリオに師事して何万年と修行したので、その成果が知りたいです。
……なんてことを素直に話せるはずもなく、シオンは作り笑いを浮かべてみせる。
「崖をよじ登るのに、俺めちゃくちゃ頑張ったんです。だから体力ついてるかなー、って」
「ははは、なるほど。それは大変な訓練になったことだろう。少しでも上がっているといいな」
「はい!」
フレイは目を細めて微笑んでくれる。
彼もまたレティシア同様、シオンの数少ない理解者だった。
神紋がないことが判明したあの日から、ずっとシオンのことを気にかけてくれているのだ。
「それでは……《ジャッジ》」
フレイが呪文を唱えれば、うすぼんやりとした光がシオンの体を包み込んだ。
その光はフレイの両目にも宿っていた。鑑定魔法を使った術者には、様々な情報が文字になって浮かび上がる光景が見えるという。
「うむ、やはり健康状態に問題はないようだ。おかしな呪いの類いもないし、ステータスも…………は?」
「? どうかしましたか?」
フレイがぴしっと固まったので、シオンは首をひねる。
そのまま彼はたっぷり三十秒ほど何の反応も返さなかった。
シオンとレティシアは顔を見合わせるしかない。
やがてフレイはハッとしたように息を呑み、もう一度呪文を唱えてみせた。
「失礼。もう一度……《ジャッジ》」
「えっ、ちょ、ちょっと……フレイさん?」
フレイはそれから何度も鑑定魔法をかけ直した。
その合間に「は?」だの「どういうことだ」だの「こんなはずは……」などと不穏な独り言をこぼし、どんどん眉間のしわが深くなっていく。
最終的に、フレイはかぶりを振って盛大なため息をこぼしてみせた。
片手で覆った顔色はひどく青白い。
「…………すまない。今日は調子が悪いようだ。他に誰か手の空いた者を呼んでこよう」
「お、お手数おかけします……?」
窓口の奥へと引っ込んでいくフレイを見送って、シオンは眉を寄せる。
「フレイさん、体調よくないのかな。悪いときに来ちゃったなあ」
「心配ですね……」
レティシアもまた気遣わしげに吐息をこぼしてみせた。
そんなときだ。ふたりの背後で、悲鳴じみた声が響く。
「シオン!?」
「うん?」
また夕方にも更新します。
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