懐かしい再会
本日ラストの更新です。
釈然としないながらも……ハッとして背後のレティシアを振り返る。
「あっ、それよりレティシア! 怪我は――」
「シオンくん!」
「わわっ!?」
レティシアが突然シオンに抱きついてきた。
ぎゅうっと背中に腕を回されて、胸に顔を埋めてくる。
おかげでシオンはひゅっ、と息を止めてしまった。
何しろ生まれてこの方、女の子に抱きつかれるなんて初めてだ。
小さくて柔らかくて、いい匂いがする。何万年と修行して悟りを開いた身でも、煩悩への耐性はゼロだった。
ドギマギするシオンだが、レティシアは嗚咽混じりの声を上げる。
「よかった……! 生きていたんですね……シオンくん!」
「……はい?」
思わぬ台詞に、きょとんとするしかない。
レティシアはつっかえながらも堰を切ったように言葉をつむぐ。
「ラギくんが、シオンくんはゴブリンたちに追いかけられて《終わりの洞》に落ちたって……! 助からないだろう、って……! でも、私、そんなの、信じられなくて……!」
レティシアは涙に濡れた顔を上げて、シオンのことを見上げてくる。
くしゃっと表情を歪めて、さらに嗚咽をあげる。
「ラギくんたちは、放っておけ、なんて冷たいことしか言わないし……だ、だから私、こっそり、ひとりで探しに来たんです……本当に、生きてて、よかったあ……!」
「ちょ、ちょっと待って。色々聞きたいことはあるけど……とりあえず泣き止もう? ね?」
レティシアの涙を袖で拭って、シオンは必死になって宥めてみせる。
やがて彼女の涙が止まったころ、シオンはまずひとつの大きな疑問をぶつけてみた。
「さっきから言ってる、そのラギって……誰だっけ?」
「えええ!?」
レティシアが目を丸くしてすっとんきょうな声を上げる。
そこで、ダリオがこそこそと教えてくれた。
【あれだろう、たしか汝の仲間。そいつに橋から落とされたんじゃなかったのか】
「えーっと…………あー! そういえば!」
しばし脳内の記憶を漁り、ようやく思い出した。
シオンはパーティリーダーのラギから散々な扱いを受け、挙げ句の果てに殺されかけたのだ。
ダリオとの出会いや過酷な修行が濃密すぎて、もう完全に存在を忘れていた。
おまけに存在をようやく思い出せたものの、依然として顔はうろ覚えである。
そんな呑気なシオンの反応に、レティシアは顔を真っ青にしてうろたえる。
「ま、まさか記憶喪失ですか!? 落ちたときに頭を打ったとか……!」
「いやいや、大丈夫。思い出したから。それよりレティシア、俺がいなくなったのっていつのこと? あれから何日経った?」
「へ? 昨日のことですから、丸一日くらいでしょうか……」
「そうか、たった一日か」
シオンはため息をこぼして空を見上げる。
久方ぶりに見る本物の太陽は、やはり以前と変わらずそこにあった。
現実世界ではたった一日。
されど、あの空間で過ごしたのは何万、何億という歳月だ。
まるで夢でも見ていたような心地だが、この体に満ちあふれる活力が、あれらの日々が幻などではなかったことを証明している。
ひとり物思いに浸るシオンを見て、レティシアは小首をかしげてみせる。
「シオンくん、なんだか変わりました……? それに、その剣はいったいどうしたんですか?」
「ああ、うん。ちょっと色々あってね」
シオンは曖昧な笑みを浮かべて誤魔化しておく。
謎空間で賢者ダリオに何万年と稽古を付けてもらった……なんて本当のことを言えるはずもない。
あまりにも荒唐無稽な話だし、仮に信じてもらえたとしてもレティシアを心配させるだけだと分かっていたからだ。
そこでダリオが声を弾ませる。
【ほう、この娘が汝の言っていたレティシアか。なかなか器量の良さそうな娘ではないか】
「そ、そうですけど……師匠、今はちょっと黙っててください。話がややこしくなりますから」
【案ずるな、我の声は他人には聞こえん。ゆえにここで我と言葉を交わしたところで、汝が『剣に敬語を使って話しかけるヤバいやつ』と思われるだけだ】
「なんだ、それならよか……って、何もよくないですよ!? そういう大事なことはもっと早く言ってください!」
「し、シオンくん……?」
おもわず叫んでしまうシオンに、レティシアはますます蒼白な顔をする。
彼女から見ればシオンは『崖から落ちて丸一日行方不明になった末、仲間の名前も思い出せない上に、剣へと話しかける』状態だ。
どうひいき目に見ても重症としか思えないだろう。
「本当に大丈夫ですか……? やっぱりどこか悪いんじゃ……」
「だ、大丈夫大丈夫! ほら! この通り怪我もないし、めちゃくちゃ元気だし!」
「でも……やっぱりちゃんと調べてもらった方がいいですよ」
腕をぶんぶん振り回して健康アピールをしてみるが、レティシアは納得しなかった。
シオンの手をぎゅっと握り、真剣な顔で言う。
「冒険者ギルドに行きましょう、シオンくん。私も一緒に付き添いますから」
「あ、ああ、うん。わかった」
シオンがおずおずとうなずくと、レティシアはすこしホッとした様子だった。
そのままシオンの手を引いて森をずんずんと進んでいく。
握った手のひらはとても温かく、シオンの心をホッとさせた。
(ちょうどいいかな。冒険者ギルドでステータスを見てもらおう)
ゴブリンが逃げてしまったため、修行の成果が確認できなかった。
ならばもう直球だ。
修行前に比べてどれだけステータスが上がったか、調べてもらえばいいのである。
本日分はここまで。明日は夕方に二回更新予定です。
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