憧れへの決意
9月2日(水)ラスト更新です!
シオンは思わず彼にすがり付くようにして叫んでしまう。
「神紋なしで……何の才能もなくて、いったいどうやってそこまで強くなったんですか!? 教えてください!」
【知りたいか? 極めて簡単なことだ】
ダリオはニヤリと笑うようにして、ひどくあっさりとこう告げた。
【地道に努力した。ただそれだけだ】
「な……!?」
シオンは言葉を失うしかない。
そんな中、ダリオは軽く腕を振るう。
するとその瞬間にゴブリンキングたちの死体に紅蓮の炎が宿り、あっという間に灰と化した。血の匂いもどういう原理かきれいさっぱり消え去ってしまう。
ダリオは両手を広げ、どこまでも続く草原を示す。
【我が弟子となるのならば、汝にはこの場所を授けよう】
「ここ……この場所って一体なんなんですか?」
【現世の理から外れた場所だ。莫大な魔力に満ちておるゆえ、時が希釈されている】
ダリオは淡々と言い、あごを撫でて要約する。
【まあ平たく言うと、ここでの百万年は外界の一分に値する】
「百万年……!?」
【体感そのくらいだ。我も人からパク……譲り受けた場所ゆえ、詳しい原理は知らんがな】
おまけに、この空間でどれだけの時を過ごしても年を取ることはない。老化スピードは現実世界準拠らしい。
そのくせここで積んだ経験はしっかり蓄積されるという。
【我もかつては汝のように、神紋を持たぬせいで無能と蔑まれて生きてきた。だが、この場所で気の遠くなるほどの歳月、鍛錬を積んだ結果……これだけの力を得たのだ】
そう言ってダリオは己の剣を掲げてみせ、ニヤリと笑う。
【それに、先ほど汝の話を聞いて、ますます確信した。汝はそのラギとかいう愚か者を、命をかけてでも救おうとしたのだろう?】
「は、はい……でも結局、捨て駒にされましたけどね……ははは」
【結果はこの際どうでも良い。大事なのは、汝が損得度外視で動けるお人好しだということだ。そんな大バカ者こそ、我が後継者にふさわしい】
「俺が、あなたの後継者に……」
シオンが茫然とその言葉を口にすると、ダリオは力強くうなずいた。
【ともあれ甘やかすつもりは毛頭ない。修行は過酷を極めるぞ。いくら年を取らぬと言っても、時間の感覚はそのままだ。最悪発狂する可能性もあるし、何億回と死にかけるであろうな】
そら恐ろしいことをこともなげに言い放ち、ダリオはシオンに右手を差し伸べる。
【おまけに地味だ。何万年と剣の素振りをし、何十万年と同じ魔法の反復練習。それでもやるか? 決めるのは汝だ、シオン】
「俺、は……」
シオンはごくりと喉を鳴らす。
本当にとんでもないことになった。
ゴブリンに追い回されていたのが、ずっと昔のことのように思える。
冗談めかしてはいるものの、ダリオの言葉は事実だろう。そもそも何万、何億年という時間をかけた修行だ。どれだけ壮絶なものになるのか予想もつかない。
しかしシオンは、恐怖など一切感じていなかった。
むしろ心の底からワクワクしていた。
(時間さえかければ……神紋を持たなくても、俺だって強くなれるんだ!)
ラギに復讐するためでも、これまで自分を嘲笑った者たちを見返すためでもない。
ただ人生で初めて感じる強い可能性に、すべてを賭けてみたい一心だった。
ダリオの手を迷うことなく握り返し、シオンは声を張り上げる。
「やります! どうか俺を弟子にしてください!」
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明日も五回ほど更新予定です。
それで一章ラストとなり、二章からざまぁ開始です。




