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炊きたてご飯はたのもしい  作者: 鼠野郎
6/13

5.寝袋? ベッドの上で寝てるぜ

五話です! ここまで読んでくれた奇跡の暇人に感謝! センクス!

あっ、それとマイルドな残酷描写があります!


 「レイニン/タイアー/コ/コ/タリーラエ」…「レイニン国/タイアー地区/外れの/外れの/大森林」と呼ばれる、とても広い森林地帯を出て、人類に接触した。

 五人殺した。

 玄がその日の出来事を日記に書くとしたら、そんな内容になることだろう。


 ト・カレが斡旋する転生者にとって最初のステージとも言える森林から、チョコの指示する通りに歩くと、細く人気のない街道に出る。一車線の道路に歩道が付いたくらいの幅だ。見渡す限りの草原とその街道以外には何もない。

 玄はチョコがふざけているのかと思い殴ろうとしたが、ここを歩いていけばちゃんと人里に着くという。


 街道に人気はなかったが、まったく人が居ないわけではなく、一時間も歩けば初めての異世界人に遭遇した。バーベキューよりも手軽にサバイバルできる世界で、なんと物乞いである。ワクワクを返してほしい。

 スキルも魔法も技能も簡単に使えるはずなのになぜ物乞いが存在するのか、「おしえて! チョコ先生!」してみると、彼らは「使えるのに使わない」らしい。どれだけ自分が頑張らずに他人に施してもらえるかが重要な、つまるところ、究極の怠け者が物乞いになるのだ。他力本願ここに極まれり。恐ろしい存在である。着古したぼろぼろの衣服に身を包んだ彼らを、玄は何とも言えない目で見やった。

 街道の端に布をひいて正座した物乞いたちは、ヘラヘラと笑いながら何かアピールしている。人差し指と中指をクロスさせた手のひらを上に向け、小指どうしを重ねるようにして両手を差し出す仕草を示して、「スキルクレクレアピールですよ」とチョコ先生が囁いた。なぜ少し楽しそうなのか。教師の風上にもおけない奴だ。チョコは人類のダメなところを嬉しそうに語ることがあるので、そういう趣味嗜好なのかもしれない。


「いらねぇ豆知識…。」


 カルト宗教を見たような玄の顔を、チョコは面白そうに見ている。

 この世界で食うのに困るのは難しいし、住むところに困るのも難しい。自分から進んで貧困する彼らと関わり合いになるとロクなことにならない気がしたので、玄はここで【無制限転移】を使うことにする。姿を隠せる【完全隠蔽】でも良かったのだが、道が狭いのですれ違う時に闇雲に服などを掴まれそうな気がしてやめた。

 転移も隠蔽も、もっとこう、太刀打ちできないような危険な相手から逃げることを想定して付与してもらったスキルなのだが。確かにある意味、太刀打ちできない危険な相手かもしれない。分かり合えないという意味で。


 【無制限転移】を使い物乞いが見えないところまで来て、げんなりとため息をつく。

 彼らの近くに、乗り物のたぐいは見当たらなかった。スキル等を使わないのなら歩いてここまで来たのだろう。人里離れたこんなところまで来て、野ざらしで、いつ通るかも分からない人を待つーーここまでくると、自分の能力を使ったほうが楽なんじゃないだろうか。想像だけで疲れてしまう。

 ペロロロロ、と鳴く森の鳥型モンスターが無性に恋しかった。凛とした美少女に「森へお帰り」と言ってほしい気分だ。


「あんな感じのやつら、まだ他に居るのか?」

「そうですねぇ、レイニン国内に派閥があって…まあ世界中にある派閥でもあるんですが、『スキル等の能力を使わずに生きる』という考えの人たちがいるんです。さっきのは、その派閥から派生した『でもラクしたいから他人に使ってもらう』人たちですね。」

「派閥て。」

「便利な世界という、土壌はいいんです。土壌はね。人は変えようがないんですよ。『一生技能だけを使って生きる』とか、『三能力の他に新たな能力を目覚めさせるため修行する』とか、いろいろありますよ。」


 便利すぎる世界も考えものだ。玄は腹いせに、チョコの無駄に長い足を蹴った。



***



「へっへっへっ、よぉ、金目のモン置いていきな。できるだけ価値のある、見た目がよく、飾り甲斐のあるやつな。」


 さらに二時間歩いたころ、二人は盗賊に囲まれた。

 物乞いもやる必要性を疑うが、盗賊もだいぶやる必要がない気がする。金に困っている様子はなく、強盗も売却目的ではなくコレクション目的のようだが、盗品コレクションの価値とは何なのか。

 お見合いなどで「お仕事とご趣味は?」「盗賊です。戦利品をコレクションしてます」という会話が生まれそうだ。通報案件である。とてつもなくくだらない想像をして、玄はちょっと和んだ。


 先ほどの物乞いには話しかける気も起きなかったけれど、この状況なら自然に聞けるのではないだろうか。物乞いより盗賊のほうがマシだと思ってしまった自分を気にしないことにして、玄はチョコとアイコンタクトをして頷き合う。

 コホン、とわざとらしく咳払いをして、チョコが口を開いた。


「ひとつ聞きたいのですが、最近、はぐれモンスターが増えているようなのです。その毛皮、見たところご自分で加工した物とお見受けします。あなた達はどうしてモンスターを殺すので?」

「何言ってやがんだ、モンスターは普通殺すだろ? はぐれは見つけたやつが始末するルールだろうが。文句言うな。」

「そうですか〜。」


 当然のことのように言われたそれは、チョコにとって不合格な返答だったらしい。生ぬるい笑みとともに唐突に殺戮が始まる。のほほんと喋ってから一人目を殺すまでがとても早く、精神が疲弊していた玄にはついて行けないレベルの切り替えパワーだった。


「がひゅぼ」

「ぎっ、ぃ…。…。ッ…。」


 モンスターのふさふさの毛皮をまとった盗賊たちを、チョコは躊躇いなく殴ってぺちゃんこにしたり、長い電気コードのような尻尾で絞め殺したりする。まだ生きている盗賊たちはその様子を呆然と見ていたが、すぐにハッとして武器を抜いた。


「テメェ!」

「あー、なんか、うん、悪いな…。」


 予告なしに仲間を二人殺されたのだ。彼らが怒るのも無理はないと思ったし、同情もした玄だったが、見知らぬ盗賊たちと見知っているチョコでは、さすがに後者のほうを援護する。

 玄は若干、人見知りである。人見知りは知らない人の味方をしないフレンズなのだ。

 盗賊たちはこの日、本当に運が悪かった。これが見知っている盗賊たちと見知っているチョコであったなら、玄は盗賊の援護をしていた可能性が高い。どちらかといえばチョコのほうがカンに障るので。


「あ。」

「ひいいッ!」


 そんなこんなで(ちょっと怪我させるくらいのつもりで)武器を抜いた順に魔法を撃っていったら、燃え尽きたり、破裂したりして、彼らはあっけなく死んでしまった。脆い。びっくりする。こんなに脆くて大丈夫なのだろうか。


「死んじゃったな。ごめん…。」


 一応謝っておく。



 悲鳴が遠ざかって、辺りにはもう死体しかない。逃げて行った残りの盗賊はどうするべきなのだろう。玄はこの世界に関して初心者なので、放っておいて良いものか迷う。

 魔法の威力が威力なので、彼らが報復に来ても問題なさそうな気がするが、おそらくこの世界の人類なら無条件であれくらいできるのだ。不意打ちなどされたら嫌だ。死んでも問題はないのだが、チョコがやったことで巻き添えをくらうのは非常にムカつく。

 まあ、その時は普通にコイツを差し出せばいい。そう思い、玄が親玉らしき大男の頭を片手でギュッとして潰したチョコに目をやると、トマトを投げ合う祭りに参加したように全身赤くなった彼は笑っていた。この中二病っぷり。


「やっぱり人類、ちょっと調子に乗ってますね。」

「ドン引きだわ。」


 お祭り会場を跡形もなくキレイキレイしながら、盗賊だったものをひとつひとつ確認すると、人間三人、亜人四人、魔人一人だった。全員がふさふさの毛皮を加工した服を着ている。ふさふさのやつは草食のモンスターなので、人に害はないはずだ。先ほど言っていた通り、モンスターというだけで殺したのだろうか。


「うーん、なあ、モンスターの肉って食えるのか? これは副産物的に出た毛皮なのか?」

「できなくもないですが、人はモンスターを狩っては食べませんよ。スキルで食べ物出せますし。スキルを使わなくとも、その他に食料を手に入れる手段はいろいろあります。優しい世界なので。」

「ふーん。」


 チョコにとっては分からないが、玄にとって、モンスターは家族だ。そして人類は別に家族ではない。お優しい世界で人を殺したことに、不思議と罪悪感はなかった。



 それから、さらに二時間ほど歩いた。日が沈んで()()()()()()きたので、今日はこのあたりで野宿となるだろう。


 なぜ日が暮れると明るくなるのかというと、この世界ーーというよりこの惑星ーーは太陽らしきモノの光が強く(不思議と暑くはないし、日焼けもしない)、それによって月らしきモノの反射も強い。つまり、朝と昼がとても明るく、夕方が薄暗く、夜はそこそこ明るいという、少し変わった仕組みなのだ。早朝も薄暗くなる。

 夜空を見上げても月は二つあったりしないが、この仕組みがなかなか異世界っぽいので、玄は少し気に入っている。


 さて、チョコの言によると、もう一時間ほど歩けば村が見えてくるらしいのだが、夜に訪ねても村人は寝静まっているので中に入れない。そこそこ明るくとも、この世界の人類はきちんと夜に眠るのだ。

 にやにや笑いで「村の外側で寝てもいいですよ」とも言われたが、朝起きたら村人に囲まれている状況など恐怖でしかない。「お前だけ寝袋に詰めて置いてこようか?」と言ったらおとなしくなったので、とりあえずはそれで手打ちとする。

 岩だらけの森林でサバイバルしてきたのに、今さら野宿で尻込みしたりはしない。それに野宿といっても、生活魔法のくくりにある【自宅】という魔法を使えば空間に穴を開けて家を作れるので快適なものである。

 メンタルクソザコの玄にとっては他人の家に泊まるほうがハードルが高いし、宿に泊まるほうがストレスだったりするので、ここは野宿一択。むしろ人里に着いた後もできる限り野宿と洒落込みたい。気分はひきこもり兼サバイバーだ。



 こうして、玄が初めて森林から出た日は終わりを迎えた。


「じゃあ、おやすみ。」


 ふかふかのベッドで空間内野宿しながら、この世界にはロクな人類がいない気がして、玄は少し憂鬱げに眠りにつく。


 一方チョコは、固めのベッドの上で寝袋に詰められて転がされ、そのまま八時間ばっちり快眠した。

 過剰なあたたかさと息苦しさで「まるで意識が遠のくかのようによく眠れた」と後に語る。世間一般ではそれを気絶と呼ぶのだが、悲しいかな、常識人などここには居ない。




玄の目に見えているもの


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物乞い【人類-獣亜人(中年/男)】

派閥:【施され隊】


イヌ科の獣亜人。無毒。食用可。

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盗賊【人類-人間(若者/男)】

派閥:なし 所属:【レイニン国盗賊団C】


草食寄りの雑食モンスターの毛皮を装備した盗賊。

無毒。食用可。

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