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炊きたてご飯はたのもしい  作者: 鼠野郎
12/13

11.迷惑ですか?

「キャラ紹介」から置き換えしています。ご迷惑おかけしました!


 通路を歩きながら、玄は安堵の息を吐き出した。


「あー緊張したあ、やっぱ人と話すの苦手だな〜。」


 そう言う口でたった今オッサンを一人骨抜きにしてきたのだが、幸運なことに本人にその自覚はない。本当はあらかた情報を引き出したらさっくり殺すか、モンスター部屋に走って部屋中のモンスターを巻き込んでさっと転移するか、くらいの考えだったのだが、あれよあれよという間に金の力で解決することと相成った。

 おかげで無駄な殺生をせずに済んだし、有力なモンスター供給源を確保することができた。少し借金ができてしまい脳内残高がマイナスになってしまったが、盗賊退治などでさくさく稼げば大丈夫そうな額だ。

 おおむね最高の結果である。玄は心の中で自分のことをめちゃくちゃに褒めた。


「ふぅ…。」


 モンスター部屋に戻ると、先ほど向かわせた店長室控えの係員が虫の息で倒れていた。


「ナンデ!?」

「あ、お帰りなさい。」


 物陰から出てきたエヒが少し頬を染めて玄を出迎えた。かわいいがそれどころではないので、無言で床の係員(死にかけ)を指差すと、エヒは軽く頷いた。


「彼はラエソエと申しまして、我が集落の若者なのですが、皆の記憶を総合しますと、この者が裏切り、集落を売ったようなのです。」

「ああ、みんなは同じところから来たの?」

「はい、私達は大森林にある湖の近く、ヤアヒバメという集落の出です。ラエソエは族長の第三子でして、別の集落と血筋の交換を控えていました。」

「血筋の交換?」

「はい。あ、ヒトにはこの慣習は無いのでしょうか。族長や族補佐の子ども同士を交換し、血を広めるのです。」

「へー!」


 ラエソエに【状態保持】をかけて死なないようにしてやり、玄は空の檻に腰掛けてエヒの話を聞く。ラエソエは死にかけの状態で固定されたので、死にかけたまま死ぬこともできずにとても辛そうだった。エヒの話以上に玄の気を引くものなど今この瞬間では他にないので、あっさりと放置されてしまい、ちょっとかわいそうである。


「ラエソエはきっと、それが我慢ならなかったのでしょう。彼は動物型に興奮する変態ですから。」

「はい?」

「え? 何か?」

「いやいや、それも説明してくれる?」

「はぁ、ええと、ラエソエは動物型のモンスターと恋仲になるのだと昔から言っているのです。いつも森で動物型の(メス)を追いかけてばかり。何度言い含めても集落の女には興味を示さなかったため、他の集落の女ならと、族長は一縷の望みを託し…。」

「そんな理由!?」


 玄は声の限りに叫んだ。叫ばずにはいられなかった。


「え、ええ。」

「動物型とよろしくさせてやりゃいーじゃん! 別に罪じゃないんだろ?」

「は………???」


 現代日本のオタクから倫理観などを抜くと、異種間コミュニケーションにも寛容になる。というより倫理観などを抜かなくともわりと寛容であった。子どもの頃から携帯できるモンスターやら、時計の力で友達になれる妖怪やら、そういうアニメを見て育っているので、人間と人外の組み合わせに忌避感がなかった。

 特に今回の場合、人型と動物型の違いはあれど同じモンスターのくくりである。玄の頭の中では人型ロボットと愛犬ロボが仲良く遊んでいる光景が浮かんでいた。心和む光景だが、現実はそんなにゆるふわではない。


 同じ集落で育った若者が野生動物と(ねんご)ろにしている光景をうっかり想像してしまい、エヒの心は一度死んだ。


「まあ何となく分かった。自分の交友関係を全否定されて、他の集落に移動のうえ、知らない相手と子作りしろってことか。」

「ハイ。」

「そりゃ嫌かもなあ。俺だって知らない相手しかいない場所に急に移り住めって言われたら発狂して死ぬと思うし。」

「ハァ。」

「うんうん。よし、じゃあ、こうしよう! エヒさん。それにみんな。ラエソエくんはほら、報いをちゃんと受けたと思わない? これで手打ちにしない? あとは集落から追放ということにして、今後は自由に血を広めてもらおうよ。」


 死にかけで生かされている地獄のような状態のラエソエを遠巻きに見て、恐れ(おのの)いていた元係員一同は、言葉もなく、力もなく頷いた。正にドン引きである。殺しかけたのは自分たちだが。


 彼らの記憶は、集落から少し離れた狩場で捕まり、【使役】をかけられたところで途絶えている。

 おそらく、モンスター売りに捕まって連れて来られたのはここにいる十数名で、狩りに出たところを襲撃されたため、村にいた族長や老人、それに幼い子どもは無事だろうと思われた。死者もほとんどおらず、玄によってヤアヒバメの面々は救われたと言えた。

 救われた自覚があるぶん、そんな玄に逆らおうという気は起きなかった。というより、特にラエソエの現状を見て強く思うのだ。玄には逆らってはならないと。繰り出される鬼の所業に悪気は無さそうだが、それが一番恐ろしい。


「じゃあ、えーと、ヤアヒバメのみんな、お家に帰ろうか。俺が送ってあげるからね。あ、その前にちょっと寄るところがあるんだけど。」


 にこりと笑う顔は、自分の食料を子どもに分け与える好青年のようだったが、彼らは玄がその食料に毒を仕込めるタイプだと知ってしまった。「死んだほうが幸せだ」と言って、親切心で飢えた子どもを殺すのが、この玄という人間なのだろう。


 ヤアヒバメの面々はそれを正しいとは思わないが、間違っているとも思わない。玄が死にかけのラエソエを「死ぬのはかわいそうだから」と死にかけの苦痛が続く地獄に叩き落としたとしても、文句を言う筋合いはないのだ。彼らの恨みはラエソエを殺しかけたことで晴れていたし、あとは亡骸を集落に連れ帰って族長に委ねようと考えていたので、こんな仕打ちまでは望んでいなかったけれど。


「よろしくお願い申し上げます。なんとお礼を言っていいか…。」


 それでも、玄は彼らの救い主には違いないのである。エヒは両手の指を二本ずつ鼻の前で合わせ、目を閉じて頷く。これは深い感謝を表すジェスチャーである。

 他の面々もエヒに倣った。


「どういたしまして。あ、忘れるところだった、ラエソエくんを元気にしよう。」


 ようやく目に入ったとでも言うように、玄は横たわったラエソエを見た。動物型と仲良く(意味深)したい彼の変態性をさんざん庇っていたわりに、その彼が死にそうなことに対しては驚くほどドライである。こういう(やから)を俗にドライモンスターという。

 虫でも見るような目でラエソエを眺めたドライモンスターは、ぽん、と自分の太腿に手を置いて【治療】魔法の【治療】を発動した。


「おお…。」

「これは…!」

「なんと。」


 ドン引きしていたヤアヒバメの面々から、感嘆の声が洩れる。

 ラエソエの傷がすうっと塞がったのだ。傷口がミミズ腫れのように薄く盛り上がって固まり、だんだんと色が薄くなって、ついに白い傷跡を残すのみとなった。誰もが一目見て「古傷」だと判断するであろう、少しカサついた皮膚の盛り上がり。明らかに致命傷だったはずのそれを、玄は魔法ひとつで治してしまったのだった。


「ところでこれをやったのは…?」

「自分です。」


 玄より少し年上であろう男が進み出る。「この男がヤアヒバメで最も力のある戦士です」とエヒが説明を添えた。

 男がエヒに目を向けると、エヒは口を閉じてスッと下がる。それに敬意と感謝を表すように頷いて、男は玄に向き直った。


「ヤアヒバメの族補佐、ナヌノヌの第一子、カヒュと申します。」

「そう、よろしく〜。」

「はい。」

「カヒュさんはその、族補佐?の息子なんだね? 族補佐っていうのは、えーと、族長補佐みたいな役職かな?」

「族補佐は、戦力または能力により、集落に対し影響力を持つ者のことです。族長に従いつつも、ある程度は己の判断で動くことができます。」

「へー!」


 好奇心を満たしていく玄はとにかく楽しそうだ。ヤアヒバメの面々はいつ受付の女が来るかとヒヤヒヤしているのだが、玄が現状の説明を忘れてしまったのは、ラエソエが虫の息で倒れていたインパクト抜群の状況のせいである。ヤアヒバメの面々の自業自得というやつかもしれなかった。


「自分は【武具作成】と【アイテムボックス】スキルを持ちます。また、戦闘技能もいくつか。それでラエソエを攻撃しました。」

「ふーん。なるほど。」

「して、キノ様。あなたはここに集められたモンスター全てを逃がすつもりだと聞いたのですが、いったいどうやるのですか?」

「あ、そうだったね。えーと、まずは【転移】で大森林のひらけた場所に移動して、希望する地域ごとに分けてまた【転移】する。今この店の店主と交渉して、この店のモンスターは俺が買ったことになっているから、追手も心配しなくていい。」


 カヒュは玄が【転移】できることに一度驚いて、店主と交渉したことにまた驚き、それによって自分たちが開放されたことにも驚いた。立て続けに驚いたので心臓のドキドキが止まらない。

 カヒュが長男であり、このさき家を背負っていく覚悟を持っていなかったなら、吊り橋効果的なアレで恋に落ちていたかもしれない。次男だったらダメだった。長男で良かった。


 人型に限らず、モンスターとは恋多き生き物である。この世界のモンスターが多種多様な進化を遂げており、地球よりも生態系がごちゃごちゃしているのは、モンスターが他種族とも恋愛・結婚・出産できるからだ。

 いかにもゲームで出てきそうな翼の生えた人魚などもそんな感じで生まれるし、逆にクチバシのある魚人なんかも出てくる。遺伝子は残酷である。


「あなたには返せないほどの恩ができました。心から感謝します。」

「うん、あの、俺は、実はモンスターを増やすために旅をしてるんだ。大森林ではぐれモンスターをいっぱい保護してさ。ここには、そいつらの親を探しに来た。だからあんたたちが気にすることは何もないよ。」


 玄はカヒュに向かって頷いて、他の面々にも目をやった。


(ああ〜〜〜、またやっちまったな…。)


 先ほどエヒにも言ったことだが、「あなた達は動物のついでです」と断言してしまったようなものだ。感謝されるのが照れくさくて、ついつい言わなくてよいことまで言ってしまうのは彼の悪癖である。


「そういうわけにはいきません…! 逃げる身では迷惑かと思っていましたが、追手を心配せずに良いのなら遠慮なく言うことができます。どうか自分たちに、あなたへの恩を少しでも返させてください。」


 カヒュがやや大きな声でそう言うと、玄が視線を向けていた面々も「その通り」と言うように眼差しを強くする。玄は少し戦慄した。


(いやいや動物型のついでって言われたようなもんなのに、そんな感謝する普通? ちょっと立派すぎない…? こんなに心が綺麗で大丈夫…? もうこれ保護した方が良くない?)


 地球では毎週日曜日朝(ニチアサタイム)に絶滅してしまった動物に思いを()せるような生活を送っていた玄にとって、動物(モンスター)人型(ロボット)は守るべき家族である。


「それならいっこだけお願いがある。まあ立ち話もなんだから、とりあえず大森林に行ってから話そうか。」

「お願いですか。引き受けます。」

「えっ??? せめて内容聞いてからにしてくれるかな?????」

「威圧やめてくれますか。」


 この時点で、玄がヤアヒバメの面々をこのまま放り出すことはできなくなっていた。


「ああ、うん。じゃ、【転移】。」


 なんかめっちゃ疲れたな…と玄がぐったりしながら宣言すると、檻の中にいた動物型モンスターたちと、係員だった人型モンスターたち、それと玄を含む全ての生き物が部屋から姿を消した。後には空っぽの檻と、事件を匂わせるようなラエソエの血だまりだけが残っていた。迷惑である。


能力紹介1-1

【治療スキル】

 失った部位をまた生やせるが、再生ではなく再構成。長さと重さは同じだが血管やら神経やらの造りは変わっている。古傷なども無くなる。筋肉量は運。

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