伯爵令嬢 シャーロット
シャーロットお嬢様は、大変に可愛らしくいらっしゃいます。
空のように澄んだ水色の瞳は光を集めきらきらと輝き、淡い色合いのブロンドの御髪には瞳の色に合わせた水色のリボンをいつも着けていらっしゃいます。
立ち姿は凛としていますが、瞳は伏せがちで、多くの方はその儚い雰囲気で庇護欲をそそられるでしょう。
「お帰りなさいませ、旦那様、お嬢様」
先日16歳になったシャーロット様は、旦那様に連れられて夜会へと出られるようになりました。
来年、我がルクエルト王国の高等教育機関にご入学されるので、その前の顔繋ぎといったところでしょう。
シャーロット様が動く度にパステルカラーの水色のドレスがふわっと広がり、その愛らしさがさらに引き立てられます。
「アドルファス、ご苦労。シャーロットのことはお前に任せて、私は自室に戻るよ」
旦那様は表情を変えずにおっしゃいます。5年前に奥様が亡くなってから、旦那様は笑わなくなりました。
「おやすみなさい、お父様」
しかしながら、シャーロット様に対しては別です。ご挨拶したシャーロット様には愛しそうに微笑み、おやすみ、と言うと歩いていかれました。
シャーロット様は、旦那様の背中を見送ると、くるりと私を振り返ります。スカートが花咲くように舞い、シャーロット様は右手の人差し指を私に向けます。
「ハーブティを私の部屋に持って来てちょうだい。今から会議よ!」
シャーロット様は完璧なご令嬢なのですが、私の前では少し我が儘なのです。
「承知しました、お嬢様」
私の返答に大仰に頷いて見せると、シャーロット様はすたすたとお部屋に向かわれました。
しかし突然止まって、またくるりと振り返ります。あのドレスもひらひらと舞ってお嬢様を引き立てることができ、さぞ幸せでしょう。
「ハーブティーは2つよ!」
そう言うと今度は振り返らずそのまま部屋に入っていかれました。私のお嬢様は大変優しくもあるのです。
そんなシャーロット様が、まさか、殺人計画を立てているだなんて、私以外きっと誰もお気付きにはならないことでしょう。