9/49
【あさとよる】②
眠れば全て忘れられた。けれど目を覚ませばまた、終わりの見えない虚ろな日々が始まる。
私は、何なのだろう。ロッカーの上で身体を丸めて考えた。
自分の名前は、思い出せる。これまでの記憶も、鮮明とは言えないまでも思い出せる。
けれどそれらは全部嘘なんじゃないか、と思ってしまう。
誰にも認識されないのは、そもそも存在しないからだとしたら?
鏡に映らないのも、「私」がそこにいないからだとしたら?
憶測で片付けてしまうのは簡単だ。でも。
存在しないというのなら、私の持ってる記憶は何?
胸を押し潰すような寂しさは何?
ここにいる私は、何?
いっそ記憶も無くなってしまえば良かったのに。「無」の状態で彷徨う方がはるかにマシなように思えてくる。が、実際はどうだか分からない。自問しても私の中に答えは無いのだから、虚しいだけ。
やがて夜になった。今夜は雲が分厚く広がり、月も星も見えないらしい。誰かが言っていた。
立ち上がり、階段を下りて昇降口へ。施錠された扉を難なくすり抜けて、笑ってしまった。
いつの間にか慣れてしまっていた。それが無性におかしくて。