【あさとよる】①
何度目かの夜が明けて、朝になった。
玄関に立ち、居間を振り返る。
「いってきます」
いくら待っても返事はこない。だからこれは、一種のオマジナイだ。
こうでもしないと、正気を保っていられる自信がない。
学校での私の定位置は、教室の隅のロッカーの上だ。
休み時間。クラスメイトたちが楽しげにおしゃべりしている。
「私も混ぜて」
私が近づいても輪が開くことはなく、話が途切れることもない。
それでも私は手近な机に腰掛けて、話に混ざったフリをする。
「うん……わかるわかる……うん、そうだね」
そんなことをしたって何も解決しないと分かっていたけれど、少しでも普通でありたかった。
自分の存在が無くなったなんて、認めたくなかった。
私が認識されなくなって、もう何日過ぎただろうか。
教室の隅でクラスメイトを眺め、誰もいない家でホコリにまみれて眠る毎日。
季節はとうに夏になって、制服も夏服になった。
けれど私は冬服のまま。これまでなら不快に思っていたはずの暑さはちっとも気にならない。
食欲はないから、餓死の心配はなかった。
変わらないのは服装だけじゃない。
眠気はこれまでと変わりない。そもそもそれ以外にすることがない。