【あさ】⑥
「危なっ!」
がくん、と膝が崩れるも、転倒することはなかった。
背後を振り返る。そこには、しっかりと施錠された扉があった。
「扉まですりぬけちゃった……」
扉と自分の手を交互に見つめる。だがしかし、仕組みなんて分かるはずがない。
校門も閉ざされていたが、すり抜けると分かっていれば訳なかった。
街灯が照らす夜道を、家を目指して一歩、一歩と進んでいく。
熱気が身体にまとわりついてくる。
歩いて歩いて角を曲がり、見慣れた家が見えた時。ほっと胸を撫で下ろした。
扉の前に立ち、ドアノブを掴もうとするもすり抜けてしまう。
そういえば、今の私は扉をすり抜けることができるのだと思い出した。
変な感じがするけれど、これは便利だ。悪用しなければいいんだし。
「お父さん? お母さん?」
真っ暗な家の中に呼びかける。返事はない。足を踏み出しかけて、違和感を覚えた。
妙にホコリ臭い。母は綺麗好きで、毎日家中に掃除機をかけている。それなのに、長年積もったようなこのホコリ臭さは異様だ。
はっとして居間に飛び込むと、がらんどうの空間が私を迎え入れた。
床にはホコリが分厚く積もり、生活感の欠片もない。
これじゃあまるで、何年も空き家だったみたいじゃないか。