【あさ】⑤
……どれくらい眠っていたのだろう。
がばりと跳ね起きると、そこは真っ暗な教室で、青白く丸い月が静かに中を照らしていた。
私が眠りこけていたのは、ロッカーの上。頬に残る涙をぬぐった。
昼間の出来事は、夢ではなかったようだ。
壁に掛かった時計はちょうど九時を示していた。
「とりあえず、帰ろう」
教室を出て、階段を下りる。廊下を歩いて、昇降口へ。
壁に掛かっている鏡を何の気なしに見て。
私は思わず悲鳴を上げた。
叫んだ声が静まり返った校内に、響いて消える。
鏡には、誰も映っていなかった。靴箱や床、扉は映っているのに、それらの前に立つ私が映っていない。
恐る恐る手を振る。変化なし。頬をつねる。ひりひりと痛い。
他人に認識されない。鏡にも映らない。私は幽霊にでもなってしまったの……?
私が今、どんな表情をしているか知りたかった。けれど、誰も、鏡すら見えないのだから私が自分の表情を知る術はない。
これ以上、ここにいたくない。
駆け出していた。
目前に迫る扉を見て、とっくに施錠されていることを思い出す。
このままでは、激突してしまう。けれど、脳の信号は間に合わない。
激突することを覚悟し、目をつぶった。
「あれ?」
何も感じない。不思議に思って目を開けると、そこには段差があった。