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【すき】⑤
僕も同じことを考えていたよ、とは言えなかった。
口に出すのも怖い。僕らにとって、お互いの存在が消えてしまうのは他の何よりも恐ろしい。
腕を伸ばして抱き寄せた。重なった胸を通して、早鐘のような心音が聞こえてくる。頭を撫でると、あさひは僕の首元に頬を擦り寄せた。
そうして長いこと、僕らは転がっていた。お互いの身体をくっつけて、お互いの体温を感じあって、お互いの心音を聞いていた。
「よる」
あさひが僕の名前を呼んだ。
「ん?」
見上げた顔に、橙の光が当たる。
「よる」
また僕の名前を呼んだ。そっと囁くように。
「よるとずっと一緒にいたい。よるとずっとこうしていたい」
その瞳に映っていたのは、どんな表情の僕だろう。
「好きだよ、よる」
あさひの目は、まっすぐで綺麗だった。そんな目で見つめられたら、逸らすことなんてできない。
僕は口を開きかけて、また閉じた。「僕も好きだよ」と言いたかったのに
「君が僕を好きなのは、君を認識できるのが僕だけだからでしょ? ここにいたのが僕じゃなくても、同じことを言ったんじゃないの?」
口から出てきたのは、意地の悪いこんな言葉だった。
あさひの顔が歪んだのを見て、僕は酷く後悔した。




