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【すき】④
……冷え込んできた。夏の終わりが近い。
ビルの中に戻ると、あさひは眠っていた。頬に手を添えた仕草が可愛い。
僕は窓辺に腰掛けて、あさひを見つめた。近づいてしまったら、自分を抑えられる自信がない。
突然、あさひの呼吸が荒くなった。上手く息を吸い込めず、苦しげに喘いでいる。
「あさひちゃん! 大丈夫?」
慌てて駆け寄り、身体を支える。激しく咳き込みながら、ゆっくりと目を開けた。
「あ……」
「大丈夫?」
大きく見開いた瞳が僕を捕らえ
「よるっ!」
強い力で押し倒された。意識が追い付かず、数秒遅れて背中に鈍い痛みが走る。
「あさひちゃん?」
珍しく憔悴した瞳が僕を見下ろし、震える指が僕の頬を撫でる。
「よる……私のこと、見えてる……? 私、よるに触れてる……?」
様子がおかしい。僕はあさひの手を掴んだ。
「見えてるよ。それにほら、ちゃんと触れてる」
揺れる瞳に涙が溜まっていく。
「本当? 目を離したら、どこかへ行っちゃったりしない……?」
「大丈夫。僕はあさひちゃんのそばにいるよ」
ほろほろと零れた涙が、僕を濡らす。
「夢を見たの。よるがいなくなっちゃって、私のことが見えなくなって。それがとても怖くて、悲しくて……」
嗚咽交じりの声は震えていた。




