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【すき】①
キスはたくさんの意味を持つ。
手の甲や額にするキスは、親愛の印。挨拶の一つだ。
唇にするキスもその意味を持つことがあるが、多くは違う。
愛情表現の一つだ。恋人同士、愛する者たちの間で交わされる。
短くキスをして、意思を確かめる。すこし長めにキスをして、気持ちの昂りを感じる。
舌を絡めてお互いを繋ぎ止めて。キスから一つになる。
廃ビルの外で夜風に吹かれながら、僕はぼんやりとさっきのことを思い出していた。
触れ合うぎりぎりに近づいて見たあさひの顔。
表情が変わらないから、心を覗きたいと言ったけれど。簡単なことだった。瞳を覗けばよかったんだ。
羞恥。困惑。瞳を覗けば、幾つかの感情が見えた。
もう少し見ていたら、他にも見えたかもしれない。けれど、目をつぶってしまったから、見えなかった。
ずっと見ていたかった。否、ずっと見ていたい。
僕は気づいていた。自分が、あさひを大切に想っていることに。恋をしていることに。
「恋」の定義は人それぞれにあると思うが、僕の中では「ずっと一緒にいたい」と感じることだ。一緒に話して、笑いあって、ちょっとしたイタズラもして……。
他人にとっては何の面白みもないような日常が、僕にはたまらなく幸せなように感じる。




