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【よる】⑨
「よる……よる?」
僕の名を呼ぶ声が聞こえた。意識は過去から現在へと戻ってくる。
目の前に心配そうな表情の少女がいた。
「大丈夫?」
その声音は硬い。
「大丈夫だよ。ごめん、うなされてた?」
上半身を起こしながら問うと、少女は後ずさりながら頷いた。
「なんだか、眠っているのが辛そうだった」
眠ることが辛くない、と言えば嘘になる。
微睡みに落ちれば決まって思い出すのは、存在が無くなってしまったあの日のこと。
思い出す度に記憶は薄れ、今は大切に想っていた彼女の名前すら思い出せない。
いつか、自分の名前を忘れてしまうこともあるのだろうか。
眠ることは辛い。記憶を奪っていく。けれど、起きていてもすることが無いから眠るしかない。
空腹は感じないのに、眠気は変わらず襲ってくる。本当に厄介だ。
起きかけの頭を振るって、床に座り込む少女を見た。
俯いた顔に浮かぶ表情は無く、何を考えているか分からない。
普段からあまり表情の変わらない子だけに、その心の中を覗いてみたいと思うことがある。




