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【よる】⑦
これ以上ここにいたくない。僕は玄関へ向かった。
ドアノブを掴もうとしたら、手がすり抜けてしまった。何度頑張っても掴めない。すり抜けてしまう。
外に出ることもできないのか……と扉に拳を打ちつけた。
「……!」
拳だけが扉をすり抜けて外に出ていた。そろそろと扉に近づく。難なくすり抜けて、廊下に出ていた。まるでゲームのようだ。
「これは便利だな」
階段を下りようとして、自分が裸足だということを思い出した。さして気にならなかったし、あの部屋に戻っても靴があるとは思えないので、そのまま下りていく。
日はどっぷりと暮れて、空には星が瞬いていた。シャワーを浴びてから、そんなに経ってない気がするのに。
街灯が淡く照らし出す夜道を、あてもなく歩く。
すれ違う人たちは、僕のことを気にも留めていなかった。それどころか、無遠慮に僕をすり抜けていく。
振り返ると、住んでいたアパートがずっと遠くに見える。彼女はどこに行ってしまったのか。
心の中にぽっかりと大きな穴が空いたような錯覚。大切なものを失った喪失感に陥る。
僕を探している……わけがない。
あの部屋が最初からあの女のものであったように、存在の消えた僕のことを、彼女が探すわけがない。




