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いないないふたり  作者: 本間えるは
20/49

【あさとよる】⑬

「あれ、怒っちゃった? ごめんごめん。でも、あんまり表情の変わらない君が、隙を見せてくれたみたいでさ。かわいいよ」

 真面目ぶった表情で囁かれて、感情のダムが崩壊した。

「っ!!」

「あ、もっと赤くなった。茹でダコみたい。体温が上がってるのかな。あったかーい」

 両頬をぷにっと掴まれ、茹でダコと呼ばれて怒らない人はいないだろう。

「茹でダコじゃない! というか、いつまで私の頬を触ってるの! 離して!」

「えー? あったかいから、もうちょっと触ってたいんだけど。それに、さっき言ってたじゃない。これからは、いつだって感じていいんです。私がいるから。って!」

 恥ずかしい言葉を一言一句真似されて、気持ちのいい人なんているわけがない。

「もう、しつこい! それに、私はそんな声じゃない!」

 依然頬を掴んでいるよるを強引に振り払い、ビルの外へと逃げ出した。よるが追ってくる気配は無い。

火照った頬に、夜風が当たって気持ちがいい。

 よく見ると、音も無く細い細い雨が降っていた。

 目を凝らさなければ見えないほど細い。こんな夜中に降る小雨ならば、濡れる人は少ないだろう。

 伸ばした手に雨粒がいくつか伝う。

 風に吹かれて気持ちいいと感じるし、こうして雨にも濡れるのに。

 私の存在は、たった一人にしか認識されない。

 頬をつつくと、まだほんのりと温かい。

 最近、よるを過剰に意識してしまう。何故だろう。

「よく分からない」

 呟いた。

 本当に、よく分からない。

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