19/49
【あさとよる】⑫
「それまでも、何人もの人に声を掛けたんだ。でも、誰も立ち止まってはくれなかった。僕の声は誰にも届かないんだって、正直諦めてたね」
「でも、あの夜、話し掛けてくれた」
「うん。どうせ君にも聞こえないって、一瞬思っちゃったけどね」
笑い声が同時に漏れる。
「久しぶりに思い出したよ。誰かと話すことが楽しいってことも、人の身体が温かいってことも。ありがとね」
優しい声が、優しい言葉が、私の胸を締めつける。いたたまれなくなって、よるの手首を強く掴んだ。
「これからは、いつだって感じていいんだよ。楽しいことも、温かいことも、思い出さなくていいの。私が、ずっと一緒にいるから」
口に出してしまってから、激しい羞恥心に苛まれる。こんなこと、誰にも言ったことない。
すらすら言えるなんて、思わなかった。
驚いた顔のよる。見えないけれど、自分の顔が真っ赤になっていることが分かる。
よるが吹き出した。
「な、何で笑うの!」
一世一代の勇気だったかもしれないのに。
「だってさ、真剣な表情をしたと思ったら、一瞬で真っ赤になっちゃうんだもん。おかしいったらないよ!」
声を上げて笑うよるに、無言の怒りをぶつける。




