【あさとよる】⑩
一緒に暮らし始めて、二週間ほど経った。
本格的に夏が活躍している。
やかましい蝉の合唱。
痛いくらいの日差し。
ありがたいことに、廃ビルはひんやりとして涼しい。そもそも、暑さなんてほとんど感じなくなっていたけど。
会話を幾つも重ねたが、二人とも、どうして人に認識されなくなったかは分からなかった。
「犬とか猫は、認識してくれるよね」
よるの言葉に、私は頷く。実際何度か散歩中の犬に吠えられたことがある。彼らには第六感があると言うが、あながち本当なのかもしれない。
「どうしてか人にだけ認識されない。なんだろうね、幽霊ってこんな感じなのかな」
「幽霊……私たち、死んじゃったってこと? でも私、そんな記憶は……」
ドラマや小説にも、自分が死んだことに気づかない幽霊が出てくる。私たちも、その内の二人なのだろうか。
しかし、よるは首を横に振った。
「いや。死んだわけじゃないと思う。仮に僕たちが死んでいるとして、余程のことがない限り、人の記憶から消えてしまったり、生きていた痕跡が消えるってことはないんじゃないかな」
「確かに」
その点は私も腑に落ちない。
学校の席のレイアウト。廃墟同然の自宅。
それは、私がこの世に存在していないかのように。始めからいなかったように。
顔を上げると、よるがいつになく真剣な表情で俯いていた。
「大丈夫?」
私の声にはっとして、いつもの微笑みを浮かべる。
「ちょっと、考えごと」
何を考えていたのか、教えてはくれなかった。




