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【あさとよる】⑧
「あの」
思い切って声を掛ける。
「ん?」
「あの……よる、さんはいつからここにいるんですか?」
彼ははて、と考え込んだ。
「いつから、と聞かれると、いつからいるんだろう。でも、もう何年もいる気がする。……ああ」
そして困り顔で笑った。
「ごめんね。正確にいつからかは思い出せないや」
背後の空を振り仰ぐ。私もその視線を追った。
分厚い雲の間から、紺色の夜空が覗いている。
「ずっと空を見てた。朝も夜も、どんな天候の日もずっと」
柔らかで寂しげな、よるの声。
「過ごした時間と引き換えに、記憶がどんどん流れ落ちていって。大切にすると決めた思い出も、うっすらとした輪郭だけ残してみんな消えてしまった。僕はもう、自分の名前すら曖昧だ」
肩が震えている。
「初めて会えた。僕と同じ子に……すごく、嬉しい」
振り返った瞳には涙が滲んでいて、綺麗だと感じた。とても優しく私を見つめる瞳に、胸が締めつけられる。
「だから……ずっとここにいて? 僕と、一緒にいて」
断る理由は何も無かった。こうして私は、よると一緒に暮らし始めた。




