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【あさとよる】⑦
男性が窓枠に腰を下ろすと、灰色の夜空が見えた。
「僕は、よる。本当はちゃんとした名前があるはずだけど、忘れてしまったんだ」
唐突に始まった自己紹介。促されて、私も名前を告げる。
「あさひちゃんか。あ、君と僕であさとよるってことだね!」
よろしく、と差し出された手を取った。
「あの」
「ん?」
私はぎゅう、と握られている手を見つめる。
「そろそろ、離して……」
「ああ!」と男性、よるは手を離してくれた。自分の手を開いたり閉じたりしている。
「一人でいるのが長すぎて、ね。誰かの手に触れたのなんて、何年ぶりかな」
乾いた笑み。
今、年って言った? 私はただ、彼を見つめることしかできない。
「君は存在が消えて、どれくらい経つの?」
よるの問い掛けに、記憶の箱を探る。
「一ヶ月……くらいだと思います」
「一ヶ月か……なら、やっと慣れてきたってところかな?」
はぁ、と気の抜けた返事をしてしまう。
正直、慣れたという感覚はない。いつもどこかに、これは夢だと叫ぶ自分がいる。
「慣れるわけないか」
「え」
よるの呟きは、心を読まれたようでどきりとする。
「こんな状況、受け入れられるわけが無いよね」
その呟きは、私に向けられたように思えなかった。よるが、自分自身に言い聞かせているようだった。




