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【あさとよる】⑥
男性は、大通りから外れた裏路地にあるビルに私を連れていった。
いわゆる廃ビルだ。窓は割られてしまったのか、剥き出しのサッシにガラスの破片が残っている程度。
床には木材が散乱し、ホコリが積もっていてもおかしくはないが、風が吹き入れている為かそこまで不快感はない。
「こんな所でも、雨をしのぐのにはいいから」と男性は言った。
私は比較的きれいな床に腰を下ろし、窓辺に佇む男性を見上げた。
「さて」
笑みを浮かべた唇が開く。
「何から話そうか。人と話すのは久しぶりだから……」
独り言の多い人なのだろうか。何だか、その気持ちが分からなくもない。
思えば私も、独り言を言うことが増えた。誰にも声は届かないけど、もしかしたら届く人がいるかもしれない、と思って。独り言でも、もしかしたら。
ふと視線を感じて顔を上げた。心配そうな表情が見える。
「大丈夫?具合悪い?」
俯いた仕草が、体調不良からくるものだと思われたらしい。
「あ、大丈夫です。平気です」
最後に人と話したのはいつだったか。あまりにも遠い昔のようで、舌がもつれて言葉を上手く紡げない。
「そっか。大丈夫ならいいんだ」
表情が緩み、男性の顔に笑みが戻った。




