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【あさとよる】③
街灯に照らされた夜道を歩く。
あそこの街灯、まだ替えてないんだ。もうすぐ切れてしまいそうなのに。
角を曲がり、家に着く。扉をすり抜けようとして、ふと思った。
ここはもう、私の家じゃない。否。最初から私の家じゃなかった。
耳鳴りがする。きーんという音が徐々に大きくなっていく。
目の前にある何の変哲もない扉が、私を拒絶しているかのような錯覚に陥る。
「っ!」
身を翻して走り出した。道なんて分からない。ただひたすらに走った。
耳鳴りが聞こえなくなるところまで行きたい。耳鳴りが聞こえなくなるところまで。
通ったことのない道を駆け、でたらめに角を曲がる。行き止まり。壁をすり抜ける。
他人の家だろうと構わない。ただ、駆けていく。
夏の茹だった空気が絡みついてくる。それを振り払い、ただ走った。
苦しくて、息が切れそうだ。それでも、どこまでも行きたかった。
「!!」
突然に視界が明るく開けた。大通りに出たのだ。
人工的な光が目に痛い。耳鳴りは始まった時と同じく、フェードアウトしていった。
大通りは夜の賑わいに満ちている。車がひっきりなしに行き交い、人の波はそれがまるで一つの生き物であるかのように蠢いている。
道の真ん中に突っ立っていた私は、こちらに向かってきた波に飲み込まれてしまう。




