【あさ】①
それは、あまりにも唐突だった。
鳴っていた目覚まし時計を止めて、十分間の寝坊をしてしまったこと。
母が叩き起こしに来て、寝ぼけ眼で支度をしたこと。
面倒くさくて、学校を休みたいと思ったこと。全て、いつも通りだった。
あくびをしながら起きてきた父と入れ違いに、家を出る。
「行ってきます」と言うのすら面倒だった。
私が異変に気づいたのは、校門をくぐろうとした時だ。
遅刻ギリギリの時間になってしまい、先生たちが仁王立ちしている中を慌てて通り過ぎた。視界に見慣れたカバンが映る。同じクラスで遅刻仲間の親友、サヤのものだ。
私は、やはりいつものように声を掛けた。
「サヤ、おはよう」
しかしサヤは応えない。聞こえなかったかな? もう一度声を掛ける。
その時、始業を告げるベルが鳴った。
サヤは私の方を振り返ることなく走っていってしまう。決して追いつけない速さではないが、その背中は遠ざかり、やがて校舎の中に吸い込まれていった。
「サヤ?」
頭の中をクエスチョンマークが跳ね回る。何か、彼女に無視されるようなことをしただろうか。考えても、身に覚えはない。昨日だって、仲良く話しながら帰ってきたのに。
呆然と立ち尽くす私の後ろで、校門が閉ざされる音がした。