首の傷痕は
「此処が私の家よ」
ユリーナさんに連れて行ってもらった家は村の中で一番大きな家だった。
もしかして村長さんの家かな?
『ユリーナさんは村長さんのご家族ですか?』
私はユリーナさんの袖をくいくいっと引っ張って石版を見せる。
「そうよ?私はこのダルゴ村の村長の娘なの」
やっぱり村長さんの娘さんでしたか。
...というかこの村、ダルゴ村って言う名前でしたか。
「そうそう、両親は優しいから気にしなくて大丈夫だから」
そう言ってユリーナさんは家の中に招き入れてくれた。
「お母さん、お父さーん今帰ったわ」
「あら?早かったのね」
「うん」
パタパタとユリーナさんのお母さんが出迎えた。
「?そちらの方は?」
「旅人の方よ、宿が無くて困ってるみたいだから今日はこちらに泊まって貰おうと思って」
「あら、それは大変でしたね、この通りこの村には何も有りませんけどゆっくりしていってくださいね」
ユリーナさんのお母さんはユリーナさんが言った通り優しい人だ。
『はい、こちらこそありがとうございます』
さっきユリーナさんにした様に石版を見せるとユリーナさんのお母さんも驚いた様だ。やっぱり親子だからか反応が似ている。
「もしかして声が...?」
「お母さん!」
言いづらそうに言ったユリーナさんのお母さんにユリーナさんが窘める。
恐らく人が気にしているかも知れない事を聞くのはいけないと思ったのだろう。
私は別に声が出ない事は気にしてない。
「ご、ごめんなさい」
『別に大丈夫ですよ』
「本当にごめんなさいね...さ、中にどうぞ」
私達はこの話は終わりにしてユリーナさんとユリーナさんのお母さん、ミナさんとの会話に華を咲かせた。
...まぁ、私は声を出せないから筆談だけど。
「あらっ?レイちゃんのローブが裂けてるわ」
『えっ?』
ミナさんに言われてローブを見るとざっくりと大きく裂けていた。
多分、森でやったんだろうな。これはもう駄目だろうな、縫って直せるものじゃない。
『...これはもう駄目ですね』
「そうね...これだともう」
しかし困った。実はローブは別に良い。ただ私は首を隠すのにローブを使っていたんだけどなぁ。首を隠せるものが無くなるのはちょっと落ち着けない。
此処の近くに町とかあるかな。
『次に寄った町とかで買い直します』
そう言ってこの話は終わりにした。
途中で村長さんが帰ってきて挨拶をした。
ユリーナさんが言った通り優しい人だった。
...良いなぁ。
夕食をご馳走になり私は客室に案内してもらった。
「レイちゃん、ちょっと良い...」
(えっ)
...固まる私とユリーナさん。
そりゃそうですよね!だって...着替え中なんですから!ちなみに下は着てる上は下着だけだ。
そしてユリーナさんが固まった理由は他にもある。それは私が声よりも気にしている事だそれは─
「レ、レイちゃん、その傷は...」
ユリーナさんが言っているのは首の事だろう。というかそれしか無いんですから。
...私の首にあるのは─火傷の痕。
それはレイの真っ白な肌に異様に目立つ醜い傷痕だった。
私は急いで服を着てユリーナさんを部屋に入れた。
『ごめんなさい。こんな醜い傷を見せてしまって...』
「レイちゃんが謝る事じゃないわ。もとはといえば私がちゃんと確認しなかったから...その傷は...」
『この傷は、その幼い頃に火事で』
「ごめんなさい!こんな事を聞いて」
『いえ...』
気まずい空気が流れる。
それはユリーナさんが部屋を出た後も消える事は無かった。
...気まずい。
あれからユリーナさんと余り話せていない。
だが、もう私は村を去る。
『それでは、ありがとうございました』
「気をつけてね」
『はい』
そう言って歩き出そうとしたら
「レイちゃん!」
(...ユリーナさん?)
どうしたのだろう?
「レイちゃん!これ...」
(!!)
ユリーナさんが渡してきたのは、薄い水色のストールだった。
もしかして気づいたのだろうか。私が首の事を気にしているのを。
「...レイちゃんは可愛いんだからオシャレしなきゃ」
ユリーナさんはニコッと輝く様な笑みを浮かべた。
嗚呼、やっぱり良い人だ。
こんなに心が綺麗なユリーナさんは。
(...私は魔法を使う者として願う、ユリーナさんが幸せであります様に)
それは神様しか分からないけど、彼女の幸せを願っても良いでしょう?