95.シロカの性格には二面性があるようです
シロカと共に上空を飛ぶ俺。
上空はさぞ寒いかと思いきや、意外とそうでもなかった。
それに何故か体に当たる風も少し穏やかな気がする。
「空の旅はやっぱり気持ち良いですわね、エンラさん?」
「はい、そうですね。意外と寒くないし、吹きつける風も優しい事に少し驚いています」
「あら、やっぱり気が付きました? 実は私の魔法でわたくしとエンラさんの周囲には保護の風魔法をかけているんですのよ」
「あっ、そうだったんですか。気を使わせてしまってすいません」
「いえ、貴方は客人ですから、これ位の事は当たり前の事ですのよ?」
客人か。
そんな扱いを受ける事なんて今までなかったな。
特にこの世界に来てからは尚更だ。
弱小なトカゲに生まれてサバイバル生活を強いられ、ドラゴンになってからはみんなに怖がられる日々。
最近になってようやくみんなと打ち解けられたからいいんだが、それまではいかにみんなに受け入れてもらうか気を使う日々だったもんな。
とてももてなされるような境遇とは程遠い生活だった。
まさかこうやってエリアボスさんにもてなされる日が来るとは想像もしてなかったな。
「まさかこんな風にもてなされる日が来るなんて思ってもいませんでしたよ」
「ふふっ、きっと今までは大変な日々を過ごしていらっしゃったんでしょうね。今日一日はせっかくですからのんびり過ごされて下さいな」
まあ、いつものんびりとは暮らしているんだけどな、おかげさまで。
やる事は多いが、時間に追われるという事もないし、意外と楽しんでいる生活はできているしさ。
「あと、わたくしに対してそんなに気を使った言葉で話して頂かなくてもよろしいのですわよ? さぞ話しにくい事でしょう?」
「ま、まあ確かにそうですけど、でもやっぱりシロカさんはエリアボスですし……」
「そんな事いったら、キュビカさんもエリアボスじゃないですか。あのような形で話して頂いても結構ですのよ?」
「えっ、でもそれだとちょっと悪い気が……」
キュビカとは何だかんだで長い付き合いだし、タメ口で話す事になんのためらいもない。
だけどシロカさんとはまだ出会って間もないのだ。
しかもシロカさんは丁寧な言葉遣いで話しかけてくるエリアボス。
そんな相手にタメ口で話す気にはとてもならないんだよな……
「……もしかしてわたくしの口調が問題ですか?」
「えっ? そ、そんなことは……」
「そうですわよね。わたくしの性格には二面性がありますから、心の距離を感じられるんですわよね。キュビカさんともそうでしたし」
そ、そうなのか。
何となくそうだろうとは思ってはいたけどさ。
「わたくし、本当に親しいお方、親しくなりたいお方と二人きりの時にしか素は出しませんの。ですが今はちょうどエンラさんと二人きり。今は良い機会かもしれませんわね……」
シロカはそう言うと目を閉じる。
そしてしばらくするとまた目を開けるのだった。
「わたくし、せっかくですからエンラさんとは仲良くなりたいんですの。ですから覚悟を決めて素を出します。出来ればエンラさんも素を出して頂けるとありがたいですわ……」
シロカはそう言うといきなり高度を上げて飛び始めた!?
そしてしばらくするとまた高度を下げて俺の前へと姿を表す。
全身を薄いピンク色へと変化させた状態で。
「やあ、エンラ。空の旅はどうだい?」
「……えっ? これがシロカさんの素……?」
「そ、そんな戸惑われるとこっちも恥ずかしいよ! そう、これがあたし、シロカの素なんだ。驚いたかい?」
体を変色させている事にも驚きだが、急変した口調にはもっと驚かされるな。
気持ちを切り替えたらこんなに口調を変えられるという事は、普段はどれだけ意識して口調を変えているんだろう……?
それにシロカの素の口調ってどこかで聞いた事がある気がするんだけど……
「えっと、今のシロカさん、いや、シロカって誰かの話し方に似ているんだよな。えっと……分かった、あのハゲタカさんだ!」
「ちょっ!? それだけは言われたくなかったんだけど……!?」
「あ、ご、ごめん!? そうだよな、シロカはハゲタカさんと仲悪かったんだもんな!? すまない、無神経な事を言ってしまって!?」
「いいや、別にあたしも分かってるからいいんだ。キュビカからもそう言われたし。あたし、自分の素と同じように話すアイツに嫉妬しているんだ。だからついつい悪口を言ってしまう。アイツが何したって訳でもないんだけどな……」
ハアとため息をつくシロカ。
シロカはシロカなりに苦悩しているんだろうな。
「嫉妬なんてせずに、シロカも素を出して本心から話せばいいんじゃないか?」
「そ、それが出来たらどんなに楽か! あたし、こう見えても結構人見知りなんだ。だから人前でこんなに無遠慮な話し方なんてできないんだよ……自己中心的だって言われるのが怖いんだ……」
そ、そうなのか。
確かにシロカは結構周りの事に気付かない節があるからな。
「昔は今の素のような性格だったのか?」
「うん、そうだよ。でもちょっとそれで嫌な事があってね。それからは怖くなって臆病になっちゃって、それを隠そうと、ちょっとお嬢様みたいな性格という仮面を被って生活するようになったんだ」
なるほどな。
今の素の性格でいた時にそれをつつかれてトラウマにでもなったのかもしれない。
それからは自分の心を守る為に、お嬢様の性格を作り出して、それで周囲には接するようになったと。
だからこそシロカの正確には二面性がある訳なんだな。
少し納得がいったわ。
「すまなかったな。変な事を聞く事になってしまって」
「いや、あたしが勝手に話した事だから気にしなくてもいいよ。それより、代わりといってはなんだけど、一つ聞いてもいいかい?」
「ん? 答えられる事なら何でも答えるぞ?」
「ああ、それじゃあ早速聞かせてもらうが、どうして君達ドラゴンはみんな一斉に山奥に引きこもるようになったんだ? 赤龍に至ってはエリアボスの役割を放棄してまでさ」
……えっ?
ドラゴンがみんな一斉に山奥に引きこもった?
そんなの初めて聞いたんだが……
「えっと……ごめん。それに関しては正直俺もさっぱり分からない。というのも、俺の生まれはトカゲで、自分以外のドラゴンとは会った事すらないんだ」
「そうだったのか……なら確かに分かるはずもないよな。すまない、さっき聞いた事は忘れてくれ!」
申し訳なさそうにそう謝ってくるシロカ。
別に俺にとってドラゴンには何の思い入れもないから聞かれたってどうって事ないんだけどな。
むしろ出会って戦いになる位なら、出会わない今の方が全然マシだしさ。
俺の仲間だったらコクリ達が既にいるし、同族に会いたいなんて気持ちは更々ないのだ。
「それにしても赤龍がエリアボスを放棄したって言っていたが、どういう事だ? そんな事したら大変な事になるんじゃないか?」
「ああ、その通りだ。現に赤龍が担当していた火山のエリアでは火山活動は不安定になっていて、火山の生物間でも争いが勃発。火山は荒れる一方だという噂は聞くね」
「そ、そうなのか……それは大変だな」
「火山のエリアは元々過酷な場所だから、他のエリアボスがその場所を自分のエリアに組み込もうともしない。だからまさにみんなから放っておかれた無法地帯っていう訳だ」
「無法地帯……とても危険なんだろうな」
「ああ、だからできるだけ関わらない方がいいよ。火山の魔物が他のエリアに侵攻してきたことは今の所ないし、関わらない事が一番だ。火山の生物にはちょっと申し訳ないけどね」
まあ、それがいいだろうな。
そんなに面倒な環境になっている所に誰が好き好んで行くかっていう話だ。
温泉作りには火山は欠かせないから、俺にとって決して無視できる話ではないんだろうが、そんな面倒な状況になっているなら関わりたくない。
温泉が作れなくなるのは残念だが、別に風呂には入れるし、生活に支障はでないだろう。
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