89.カモメが家にやってきました
「あらっ聖焔さん、御機嫌よう」
「風渡……なんじゃ、随分と早いんじゃのう? 明日来ると書いてあったからてっきり明日来るものだと思っておったんじゃが……」
「ふふっ、ちょっと待ちきれなくて早く来ちゃったんですわよ。食べ物の事しか書かない貴方が食べ物以外の事を書くようになるほどのその生活ぶりが気になりましてね」
食べ物以外の事を書くようになるということは、もしかしてキュビカの奴、今まで食べ物の事しか書いてなかったのか!?
だけど風渡の発言から考えると、最近のキュビカは俺の事について書いていたりするんだろうな、きっと。
キュビカとは色々あったからな……
「そういえばお主はおにぎりが気になってここへ来たんじゃったかの?」
「そうですわね……それも気になる事の一つにしか過ぎないのですけれど。まあ、そういう事にしておきましょうか」
「相変わらずお主は掴みどころがないの。まあ、よい。エンラ、おにぎりを頼む。これがお代じゃ」
俺はキュビカから銀貨2枚を受け取ったので、キュビカに二つのおにぎりを渡した。
ちなみにおにぎりの味は両方ともシーチキン味だ。
「ほれ。これがおにぎりじゃ。とても美味いから一度食べてみい?」
キュビカからおにぎりを受け取った風渡。
とても不思議そうな顔をしておにぎりをしげしげと眺めている。
「これが……おにぎりなのですね?」
「そうじゃ。最初は少し戸惑うかもしれぬが、一度食えばもう病みつきになる事間違いないのじゃ。ほれ、こうやって食うと良いぞ」
そう言ったキュビカはおにぎり一つを丸飲みにした。
さすがはキュビカさん。
食べ方が豪快だな。
いや、この場合飲み方というべきなんだろうか?
まる飲みしているしさ。
「え、えっと……とりあえずわたくしも頂くことに致しますわ」
若干戸惑いながらも恐る恐るおにぎりを口に入れる風渡。
ちょっとしか口に入れていないので、まだおにぎりの具の部分まで食べておらず、多分味がまだしないだろう。
なので風渡はおにぎりを食べてもクエスチョンマークを浮かべているような表情をしていた。
「お主、先端の部分しか食べておらんじゃろう? それでは味がしないのも無理はない。おにぎりの中心部に味のある具というものがあるのじゃ。そこまで食べないと美味くはないぞ?」
「そ、そうなのですね。分かりました。もう少し食べ進めてみるとしますわ」
ちょこちょことおにぎりを食べていく風渡。
上品な振る舞いを意識しているのか、一口に食べる量が体の大きさの割にはだいぶ少ない。
結局おにぎり一個を食べ終わるまでに数分かかっていた。
「あら、この食べ物面白いですわね。中の具とその周りの白い物をバランスよく食べるとちょうどよいですこと」
「そうなのじゃ。具だけでは味が濃すぎるが、それが周りのご飯と一緒に食べることでちょうどよくなる。それがおにぎりの美味さの秘訣なのじゃ!」
やっぱり食べ物の事となると語るな、キュビカさん。
さすがは日頃から何個もおにぎりを食べるだけの事はあるわ。
「そういえば聖焔さん。この食べ物はどこで手に入れたんですの? この白い物といい、今まで見かけた事がない食べ物なのですけれど」
「そうじゃな……それはこのドラゴン、エンラに聞くのがいいじゃろう。わらわはエンラからおにぎりを買っているだけじゃからよく分からんのじゃ」
そうキュビカが言うと、風渡は俺の事をじっとみつめてくる。
うっ、やっぱりそうくるのか。
普通見たことのない食べ物の出処は気になりますよねー。
「それでエンラさん。この食べ物はどこで手に入れているんですの?」
「これはですね……一種の魔法で生み出しているものなんですよ」
「魔法で生み出す……? そんな事が可能なのですか!?」
「はい、そうなんです。一回やってみせますね」
俺はそう言うと、女神ショッピングの画面を呼び出し、おにぎり一個を注文した。
すると俺の手の上におにぎりが出現する。
「はい、こんな感じですね。ちなみにこの魔法を使うには対価となる物が必要になります。なのでそこの聖焔さんからも、何かしらのお代を頂いているんですよ」
「あら、そうなのですか。初めて見ましたわ、そのような魔法は。でも実際に起きているのですから、実在する魔法である事は確かのようですわね……」
女神ショッピングを使って見せたことで、ますます興味深そうに俺の事を見てくる風渡。
うーん、なんか余計な事をしてしまったような気がする。
「ちなみにその魔法を使って作り出した食べ物を食べても大丈夫なものですの?」
「大丈夫じゃ。というか、大丈夫じゃなかったら、今頃わらわはこうして生きてないわい!」
「そうなのですね。なるほど……ますます興味が湧いてきましたわ……あなた、是非今度わたくしのエリアに遊びにいらっしゃらない?」
「えっ? 風渡さんのエリアにですか?」
「ええ。きっとこのおにぎりというものの話をみんなに聞かせたら、みんな食べたがると思いますわ。ですからあなたには是非その魔法で私の国の人達に食べ物を振る舞って頂きたいんですの」
「なるほど。でもしばらくここを留守にする訳には……」
「そんなに長居は求めませんわ。それにもちろん対価も払いますし。ついでにせっかくですからエリア内をわたくしが直々にご案内させても頂きますわよ?」
なるほど。
短期カモメエリアツアーみたいな感じになるって事か。
エリアボス様が見たことのないエリアに関して直々に教えてくれるというのは結構大きいな。
それなら行ってみてもいいかもしれない。
「それならば是非行かせて下さい」
「ふふっ、ありがとう、エンラさん。あなたならそう言ってくれると思いましたわ」
こうして俺のカモメエリア短期旅行が決定した。
ただ、風渡はキュビカと話したい事がたくさんあったようで、それからひたすらキュビカと話し続けている。
よく飽きずに話続けられるよな……
眠くなってくるのをこらえながらその場でじっとしている俺。
だが、そんな俺に唐突に話題が振られる事になる。
「なるほど。つまり今のあなたはキュビカという名前なのですね?」
「ああ、そうじゃ。正直聖焔っていう呼び名は人間どもがわらわを守り神として奉っていた時に呼んでいた名前じゃ。今やわらわは守り神でもなんでもない。故にただの一体の動物としてのキュビカという名を気に入っておる」
「確かにわたくしについた風渡という名前も守り神としてのあだ名みたいなものですわね。今はそのような役割はありませんから、貴方の仰る通り、一体の動物としての名前があると良さそうですわ」
「そうじゃろう? 実はこのエンラ、名付けのプロなのじゃ。ものの数分で名前を決めてくるんじゃぞ?」
「そ、そうなのですか!?」
「ここにたくさん動物達がおるじゃろう? 実はここにいる全ての動物達には名前があってな。その名前は全てエンラが付けたものなんじゃ」
「そ、それは凄いですわね……それなら私の名前も頂けたりしないものかしら……?」
そう風渡が言うと、じーっと黙ってキュビカと風渡が俺の方を見つめてくる。
えっ?
これってもしかして俺がカモメさんに名前をつけないといけないパターンですか?
ちょっと勘弁して下さいよ……
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